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選手は誰のものか?

2014/03/03

 2013年末、フランスラグビー協会と国内リーグ機構は、長年の懸案であった代表選手の扱いについての新たな協定にサインした。目的は、代表チームによる選手の招集期間の増加、及び選手の年間の試合数を制限し怪我の可能性を減らすとともに、テストマッチに最善の状態で挑めるようにすることと、その見返りに選手の雇用主であるクラブが、協会側から金銭による保証を受けられるようにすることである。イングランドのエリート・プレーヤー・スコッドに例を取ったもので、主な内容は、毎年5月末にフランスラグビー協会が30人の代表候補選手リストを発表し、リストに入っている選手の総試合数を年間で最大30試合に制限、国際試合の度に代表選手を奪われる形になり、選手が怪我をして帰ってくるというリスクも負うクラブ側には、保証として選手1人、1日につき1300ユーロが協会側から支払われるというもの。双方のニーズを満たすにはほど遠いが、ひとまず一歩でも前進しようという双方の意図が働いた結果である。 
 
 その中に以下のような条項がある。 
 
 「トップ14の19節と21節において、選手は各クラブに送り返されるが、クラブと代表チームのスタッフ間の協議の後、各選手の状態を鑑み、代表チームのスタッフの反対がない場合のみ選手はプレーが可能となる」 
 
 19節と21節というのは、それぞれ2月の第3週と3月の第1週にあたり、シックスネイションズの試合がない代表の中休みウィークである。代表監督にとっては、大会真っ只中であり選手を休ませたいところだが、クラブチームだって勝つためにやっており、ただでさえ前後の「doublon(ドゥブロン)」(フランス語で、重複、ダブりといった意味。ラグビー用語では、代表のテストマッチがある週に同時に行われるトップ14の試合を指す。毎年シックスネイションズの期間中もリーグの試合は継続しており、参加国の代表選手を抱える各クラブは、直前の代表合宿期間も含めて、彼ら抜きで数試合を戦うことを余儀なくされる)で、主力抜きのチーム編成を強いられる各クラブ首脳にとっては、せっかく戻ってきた代表選手を使いたいのは当然である。一方で、疲労が溜まった選手は怪我の可能性が高まり、そうでなくとも、試合翌日に代表チームに再合流することになり、結局代表チームにとっては翌週末のテストマッチに向けての最善の準備は不可能となる。何年も続いていたそんな悪循環を断ち切るための以上の条項だったのが、導入直後のシーズンから結局絵に描いた餅に終わってしまった。
 
 19節の試合前、フランス代表監督であるフィリップ・サンタンドレは直前のイングランド戦及びイタリア戦で先発していた12選手をベンチから外すよう各所属クラブに要請していたが、最終的にプレーしなかったのは6選手のみ。各クラブは、代表よりもまず自分たちの勝利を優先したことになる。「イングランドはスタメン全員。アイルランドは98%が休みを与えられた。ウェールズは32人のスコッドの中で12人がプレーしたが、20人はベンチ外」と、他国の状況を挙げサンタンドレは嘆いたが、4選手を代表へ送り出すトゥールーズの会長ジャンルネ・ブスカテルは、新協定を非難した。「電話一本掛けてきて選手を使うなというのは、協議とは言わない。私たちの支配下にあるはずの選手をプレーさせることを妨げる何とも奇妙な状況だよ。負傷に関して判断してプレーさせるか決めるのは私たちだ。怪我をしている選手をプレーさせることはない。選手の健康に関しては、シーズンを通して気をつけている」。実際に選手に給料を支払うのはクラブであり、協会ではない。代表チームの活躍が国内のラグビー人気の基礎であることは理解しつつも、自らのクラブ経営が優先されるのは経済原理。代表スタッフの要望通り、トマ・ドミンゴとウェスレー・フォファナをプレーさせなかったクレルモンのスポーツディレクター、ジャン・マルク・レルメも「今のところうちはメンバーが豊富だから問題はなかったけど、メンバーが欠けていたら、休ませることはなかった」と正直に打ち明けている。また、協定内には、代表側からの要請に添わなかったクラブに対しての何らかの罰則も明記されていない「紳士協定」であることも、曖昧さを助長することになった。フランスラグビー協会会長であるピエール・カムーは、協会の力を示すべく、ウェールズ戦に挑むサンタンドレに、要請を無視してプレーした(させられた)選手を外すことを示唆したが、監督は首を縦に振らなかった。結局21節に関しては、サンタンドレは完全に匙を投げ、クラブに選択権を預けることに決め、30人のスコッド中、19人が先発、5人が途中出場、6人がベンチ外ということになったが、次のスコットランド戦で先発が予想されていたフッカー、ディミトリー・ザルゼウスキーを怪我で失うことになった。 19節にも、同様にフッカーのバンジャマン・カイザーとプロップのリュック・デュカルコンを失っており、問題が新たに浮き彫りになった形である。 
 
 このクラブと協会間の喧嘩で、いちばん被害を被っているのが代表選手たち。フランスプロラグビー選手協会会長であるセルジュ・シモンは、「選手にとって雇用主であるクラブに反対するのは不可能だが、フランス代表を諦めるのも不可能だ」と選手の気持ちを代弁した。人質にとられた選手たちを解放するためにも、そしてフランスが15年のワールドカップで悲願のウェブ・エリス・トロフィーを願うのなら、協会とリーグ機構は急ぎ新たな着地点を見つける必要がある。

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