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クラブか、代表か。

2014/03/06

 前回取り上げたフランス代表チームとトップ14のいくつかのクラブとの軋轢について、現在の日本のラグビー事情と比べて、いまいちわかりにくいところもあるので、もう少し詳しく述べてみたい。

 

 まず、2つの機関とそれぞれの立ち位置を簡潔に。 フランスラグビー協会。フランス国内のラグビー関連の頂点に立つ総締め。本題に関しては、代表チームの責任者及びプロモーターと考えればわかりやすい。

 

 国内リーグ機構。スポーツ省とラグビー協会の委任を受け、国内のプロリーグであるトップ14と2部にあたるPro D2を統括する団体。目的は、国内リーグ及び欧州カップ戦の運営である。日本ではトップリーグはラグビー協会が直接主催しているが、フランスの国内リーグ機構は、基本的に独立した機関であり、30あるプロクラブ(1部14、2部16)の代表機関と考えるとわかりやすいが、当然ラグビー協会の息がたっぷりかかっている。

 

 イングランドでは1995年のラグビーのプロ化以降、クラブチームにおける試合数の増加に伴い、代表チームに割ける時間は減少。一方で選手にかかる肉体的負担は増すこととなり、選手に給料を払うクラブ側は、経済的に何の恩恵ももたらさないだけでなく、怪我でチームのベストプレーヤーを失うリスクも負うことになるテストマッチへの選手の派遣に難色を示すようになる。1998年に行われたイングランド代表のオーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ遠征では、いくつかのクラブが選手の派遣を拒否。「2軍」で挑むことになったイングランドは、ニュージーランドマオリも含め7戦全敗を喫し、「地獄の遠征」と名を残すことになった。また、翌シーズンのヨーロッパカップ(現在のハイネケンカップ)も、イングランドクラブのボイコットを受け、イングランド勢抜きで行われることになる。「club versus country」とまで言われた以上のような状況を解決すべく、2001年にイングランドラグビー協会とプレミアシップのトップクラブがテーブルについて生まれたシステムが、エリート・プレーヤー・スコッド。大まかに言えば、クラブ側は代表選手の招集と試合数の制限に応じる代償として、イングランドラグビー協会からそれに応じた補償金を受け取るというもの。

 

 今回フランスラグビー協会とリーグ機構が結んだ協定も、そのシステムを倣ったもの。元々フランス国内でも同様の問題は長年燻っていたが、協会、リーグ、クラブの足並みが揃わずにいたものが、2勝8敗1分けという2013年のブルーの惨憺たる結果を踏まえ、藁にもすがる思いで13年末に協会とリーグ機構が締結したこの協定が問題の発端。代表側の言い分は、選手が疲れ過ぎている上に、テストマッチのための準備期間がなさ過ぎるということで、それに応えてリーグ機構が協会に提案したのが代表候補選手の試合数を制限すること。実際、この協定に従って、今年から初めてシックスネイションズの直前に2週間の代表合宿を組むことが出来たが、一方で大会期間中の選手の扱いに関しては、前回のコラムで述べた通り、一部のクラブが代表チームからの指示に従わずに選手をプレーさせることになった。

 

 細かな内容は、毎年5月末に(6月がテストマッチ期間となるため)フランスラグビー協会が、30人の代表候補スコッドを発表。代表候補選手の試合数を、シーズン最多で30試合に制限するというもの。ただし、トップ14のプレーオフとハイネケンカップの決勝トーナメントの試合に関してはこの計算には含まれない。また、20分以下しかプレーしなかった場合にも、プレーしたとはみなされない。テストマッチは年間ほぼ11試合。となると、スコッドに入っている選手は、すべてのテストマッチに出場する前提だと、クラブではレギュラーシーズンで19試合しか出られないことになる。さらに、もしヨーロッパのカップ戦の予選プール6試合すべてに出場するとなると、残りは13試合のみ。トップ14のシーズン総試合数は26試合なので、クラブ側としては、チームのベストプレーヤーであり、最高給取りでもある選手を、シーズンの半分の試合でしか使えないことになる。5000万の年収を払っている社員が、半年間しか働かず、おまけに大半の期間は親会社に無償で出向となれば、どんな雇用主でも納得がいかないのは当たり前。補償として各クラブには選手1人、1日につき1300ユーロが支払われることになるが、クラブにとっての問題は金ではなく、彼らが抜けた穴をどう埋めるかということ。

 

 さらに代表監督は何枚かのジョーカーを持つ。候補選手が3ヶ月以上の怪我を負った場合には、12月31日以前なら、新たな選手の招集が可能。また、シーズンイン前なら、パフォーマンスの悪い選手を外し、別の選手をリストに加えることができる。とどめは、代表監督がリストに載っていない選手を呼びたければ、いつでも呼んでよく、その選手は「30試合制限」を受けずに済むというもの。つまり優秀なフランス人プレーヤーを抱えるクラブほど、常に選手を「持っていかれる」リスクがつきまとうことになる。ここまで来ると、クラブ側からすれば、協定に何の意味があるのかと言いたくなるところだが、代表監督としてはシーズン中にいい選手が出てくれば呼びたくなるのは当然で、選手の側からしても、いいプレーをしてもシーズン前にリストから外れていれば代表に入れないということでは、モチベーションは上がらない。

 

 問題は、代表選手をシーズンの半分も奪われた各クラブの監督が、どうやってチーム編成をするのかということ。代表選手を抱えるのは、大半が有力クラブであり、大枚をはたいて代表クラスの外国人プレーヤーを連れてくることも可能だが、協会は代表強化にはフランス人選手にプレー時間を与えることが重要として、フランス国内の育成機関で3年以上を過ごした選手がチームの55%以上を占めるように定めている。育成が重要なのは各クラブもわかっており、力を入れているが、優秀な選手を育成し、代表に選出されるようになるほど、 自分たちが育てた選手が、クラブでプレーできないという、何とも矛盾した状況に陥ることになる。

 

 さらに、リーグ機構は2014-15シーズンから5年間で約495億円という巨額の放映権契約を結ぶことに成功したが、代表選手の華麗なプレーを見る機会は、大きく値上がりした放映権料に反比例して減ることになる。それは、安いとは言えない年間シートを買って足繁くスタジアムに通う熱心なサポーターにとっても同様。

 

 2月19日には、クラブと代表の板挟みになっている代表選手たちからも、プロラグビー選手協会を通してフランスラグビー協会とリーグ機構に対して現状の改善と、シックスネイションズ後に選手協会を含めた3者での再協議を求める声明が出される、異例の事態となった。

 

 各クラブの会長も、監督も、そしてサポーターも、フランス代表のサポーターであることに変わりはなく、すべての選手はフランス代表のジャージに袖を通すことを夢見る。それでも現協定が全員を納得させるものではないのも確か。フランスラグビー協会とリーグ機構が結んだ協定は2016-17シーズンまでのものだが、すべてのラグビー関係者が真に代表強化を望むなら、選手協会も含めた話し合いが急ぎ必要だろう。

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