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フランソワ・トランデュックが代表に呼ばれない件

2014/05/12

 今や、フランス国内では「トランデュックの件」と呼ばれるまでに。

 

 5月7日。1年半後に迫ったワールドカップを見据え重要な位置づけとなる、フランス代表の6月のオーストラリア遠征メンバー31人のリストが監督であるフィリップ・サンタンドレから発表されたのだが、そこに今季出色のパフォーマンスでトップ14のモンペリエをレギュラーシーズン2位に導いたスタンドオフ、フランソワ・トランデュックの名前は、「またも」なかった。今季のシックスネイションズの直前には、イングランド代表監督スチュアート・ランカスターに「フランス1のスタンドオフ」と評された、フランス代表キャップ49を誇る、ヴェトナム人の祖父を持ちフランス人としてはしょうゆ顔の27歳。

 

 2008年に、当時の代表監督だったマルク・リエブルモンに21歳の若さでトリコロールの「Numero 10(ニュメロディス)」に抜擢され、2011年ワールドカップまでは「リエブルモンのお気に入り」だったはずが、大会半ばでベンチに追いやられ、代わりの10番にはそれまで試したこともなかったスクラムハーフのモルガン・パラを据えられるという屈辱を受ける羽目に。大会期間中のフランス代表は、完全に内部分裂状態。予選プールをかろうじて突破するという戦い振りで選手から見放されたリエブルモンは自らのプレーヤーを公式会見時に「クソガキ」呼ばわりし、一方でガムを噛みつつインタビューに応えるなど傲慢極まりない態度とコメントを発し続けた一部の主力選手たちはメディアの集中砲火を浴び続けた。その渦中においても、常にメディアに対しても礼儀正しく応対するトランデュックは、自分の「保護者」であったリエブルモンの突然の裏切りにも耐え、フォアザチームのコメントに徹し続けたのだが、2012年2月に、代表監督を退いていたリエブルモンが自著の中でトランデュックを含めた当時の選手たちを公に批判すると、「あんなやり方で敬意と団結心の価値を謳う男からの批判は受け入れられない」と応戦。協会も含めたラグビーサークル内の古い頭のお偉いさん方の中には、その反応を快く受け取らない者も多かった。

 

 その一方で、スタンドオフとしてのキャプテンシーの不足と、内向的な性格でチームに溶け込まないという声も聞こえていたが、今季はキャプテンとしてモンペリエを牽引。クラブで監督を務める元フランス代表キャプテンのファビアン・ガルティエもそんな意見には異を唱えて、以下のように続ける。「フランソワは常にいいプレーを見せていた。でも、ここ最近のプレーの質は、本当に稀に見るものだよ。議論の輪の中に入りたくはないし、問題を起こしたくもないからブルーのコーチ陣の選択に対して色々言いたくはないけど、確かにフランソワにとっては辛いことだ」。またクラブの会長であるモエッド・アルトラドは、「本当に理不尽だと言わざるをえない。彼のキックの精度に対してとプレースキッカーではないという批判は、今の成長した彼には当てはまらない」と、暗にそれ以外の理由があるのかとでも言いたげに、サンタンドレの選択を批判する。実際昨季と比べプレースキックの精度を格段に上げた今季のトランデュックはチームでもプレースキッカーを任され、トップ14で最高の86,2%の成功率を誇り、最多のドロップゴールも決めている。

 

 「彼のパフォーマンスからすれば、遠征メンバーに選ばれると考えるのは普通だろう。今朝電話で直接話もした。彼にも言ったように、違いはたった1つだけ。フレデリック(ミシャラク)は、スタンドオフとしてのシーズン後半の活躍だけでなく、9番でも10番でもプレーできる。つまり、今回のシックスネイションズでも功を奏したようなフォワードを6枚ベンチに入れる戦略が可能になる。もし、14人のバックスを今回の遠征に連れて行くことをフィリップに納得させることが出来ていたら、フランソワを連れて行っただろう」と代表バックスコーチのパトリス・ラジスケは弁解し、サンタンドレは「スタンドオフに関してはレミ・タレスがファーストチョイス。フランソワはワールドカップ圏外にいるというわけではないが、序列は出来ている。自分の中でこの決断ははっきりしている」と答えた。ラジスケ自身が、ゲームを「創れる」スタンドオフよりも、キックを使って「整えられる」10番を好むことも、ガルティエの下アタッキングラグビーを標榜するモンペリエでプレーするトランデュックには向かい風となっている。また、数ヶ月前に噂となった、昨年のヨーロッパチャンピオンであるトゥーロンへの移籍を、代表首脳陣も説得したのだが、それを袖にしてモンペリエに残ったのも響いているという声まで聞こえてくる。

 

 スカッド発表の直後にビアリッツ・オリンピックの監督であるディディエ・フォジュロンが「どうやったら、常にチームを前進させ、あんな高いパフォーマンスを見せる選手を呼ばないでいられる。現状では、彼が最高のスタンドオフだよ」とコメントしたことでもわかる通り、プレーの面で今トランデュックを呼ばないのは、いささか理解に苦しむところ。礼儀正しい好青年といった雰囲気のトランデュックと代表の間に、それ以外の何かがあるのかと勘ぐってしまうのも無理はない。「フランソワががっかりしているのはわかっているよ。でも、さっきの説明以外に特別な理由はない。『トランデュックの件』も存在しない」とサンタンドレは答えているが。

 

 「本当にがっかりしているよ。でも、監督の判断と代表選考の基準は尊重する。自分は常にここにいる、フランス代表チームのために。練習すれば報われるのは知っているから、自分でトレーニングをするだけだよ。進歩しているし、自分がどの位置にいるのかもわかっている。確かに辛いけど、これがスポーツの掟だから」と本人は受け入れるが、最高のパフォーマンスを見せつつも代表に呼ばれない悔しさは大きいはず。「モンペリエでの今の自分は本当に調子がいい。今はこのシーズンのラストに集中するだけだよ。あと2試合残っている。願わくば。持っている力をすべてモンペリエに注ぎたい」。そう続けるトランデュックとモンペリエは、17日土曜日、トップ14のプレーオフ準決勝で、 レミ・タレス率いるカストルと対戦する。新旧フランス代表10番対決で、トランデュックはサンタンドレとラジスケの考えを改めさせるほどのプレーを見せられるのか。期待したい。

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