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トゥーロン、ハイネケンカップ連覇。

2014/05/29

 正真正銘街の中心街に位置するスタジアムはヨーロッパで2つだけ。トゥーロンのマイヨールと、ウェールズのナショナルスタジアムであるカーディフのミレニアムスタジアム。5月の第4週の週末、来季からの大会方式変更を控え、最後となった欧州チャレンジカップとハイネケンカップの決勝のために、ヨーロッパ中のラグビーファンがカーディフに集まった。両トーナメントの決勝を同じ街で金曜日の夜と土曜日に分けて行うのは(ただし、別々のスタジアム)、毎年の慣例。開催都市は週末の間ラグビー一色に染まる。

 

 欧州クラブナンバーワンを決めるハイネケンカップ決勝を5時に控えた土曜日の午後、カーディフの通りは、思い思いの格好で各々のメッセージを発信するサポーターで溢れていた。サラセンズとトゥーロンのサポーターだけでなく、前夜のチャレンジカップ決勝を戦ったバースとノーザンプトンのサポーター、セルティックリーグ、トップ14、プレミアシップのクラブのジャージも至る所に見える。サラセンズに準決勝で敗れたクレルモンのあの目立つ黄色いジャージの一団に出くわす。去年、ダブリンの決勝ではトゥーロンに敗れ、今やフランス国内でも両チームのライバル意識は知れたところ。

 

 「どっちの応援だよ?」

 笑いながらそう訊く僕のトゥーロンのジャージを見ながら、男も笑ってはぐらかす。

 「ラ・マルセイエーズ歌ってくるよ」

 

 今季限りでの引退を表明したトゥーロンのスタンドオフ、ジョニー・ウィルキンソンにとっては、英国内での最後の試合。母国の英雄の勇姿を最後に一目見ようと、イングランド代表のジャージを着たファンも多く、トゥーロンの10番のジャージを着たイングランドサポーターもやたら見かける。たまたま道端で話して意気投合して一日を過ごすことになった、現在55歳のサリーズサポーター、元ラグビー選手で現在は町議会議員のマーティンが嘆く。「サラセンズサポーターはどこだ」。

 

 英国らしく朝から降り続く雨にも、街の熱気は冷めることはない。至る所で笑い声が、英語で、フランス語で、弾ける。サポーターが歌う声が聞こえる。試合開始1時間半前の開門が近づくと、「聖地」ミレニアムスタジアムに、三々五々サポーターが集まってくる。試合後に落ち合う時間と場所を決め、試合前にもう1杯と言うマーティンを残しスタジアムへ(昼食時に既に1人で赤ワインを1本空けていたのだが)。

 

 完全開閉式の屋根は閉じられ、雨に打たれる心配もない。芝生の状態は最高。チーム練習を前に、ウィルキンソンが今や儀式となったキック練習をいつものルーティン通り行っていた。

 キャプテンを先頭に両チームがグラウンドに出てくるとスタジアム全体がスタンディングオベーションで迎える。ともに今季限りでジャージを脱ぐ元イングランド代表2人。サラセンズのキャプテンは、ジャパンのフォワードコーチ就任が決まっているスティーブ・ボースウィック。トゥーロンを率いるのはジョニー・ウィルキンソン。

 

 堅いチームディフェンスと接点での激しさを売りとする似たチーム同士の対戦に、イングランドメディアでは、プレミアシップで圧倒的な攻撃力も見せたサラセンズが若干有利という見方だったが、終わってみれば、トゥーロンの鉄壁の防御とウィルキンソンのタクトの前に、ロンドナーはオーウェン・ファレルの2つのペナルティゴールのみに押さえられ、何も出来ずに終わった。「おれたちはチームで狩りをする。おれたちは狼の群れなんだ。狼の力はその群れ。群れの力は狼さ」。試合前にそう語っていたファレルだったが、その狼の群れはミレニアムスタジアムのどこにもいなかった。

 

 硬さが見え、信じられないようなミスも飛び出し、前半20分過ぎまで最悪の出来だったトゥーロンは、それでも3点のみのビハインド。22分にはファン・マルティン・フェルナンデス・ロベがシンビンを受けるも、10分後に戻ってきた時には、マット・ギタウとドリュー・ミッチェルのオージー親友コンビが奪ったトライでトゥーロンが7−3とリード。それまでにサラセンズはペナルティキック2本にドロップゴールを1本外しており、この時点で試合の流れは決まっていた。前夜の試合でも、バースのジョージ・フォードが難しくないペナルティを3本立て続けに外したのが響いて結局試合を落としたが、このレベルの試合で取れるはずの点を取らないことは、負けに直結する。ライン際の難しいコンバージョンをポールのど真ん中に通し、前半終了間際には、一週間前のトップ14の準決勝ラシンメトロ戦同様に、利き足とは逆の右足で平然とドロップゴールを決めてチームを流れに乗せたウィルキンソンとは対照的だった。

 

 後半に入ると両チームの差はさらに顕著になり、完全に攻め手を失ったサラセンズは、46分にファレルが2つ目のペナルティを決めたのが最後の得点となった。トゥーロン同様に一週間後に自国リーグの決勝を控えていたサリーズヘッドコーチのマーク・マッコールは、負けを悟った60分以降はプレミアシップの決勝に備え主力を交代。一方のトゥーロンは、ビデオ分析で見つけていたというサラセンズディフェンスの穴を突いて、60分に見事なトライを決め、ウィルキンソンが後半もすべてのキックを沈め、23−6で、イングランド国内では「無敵」とまで言われていたサラセンズに完勝。フランスのクラブとしては初めてハイネケンカップを連覇した。

 

 スタジアムを出たところでマーティンと再会する。

 

 「おめでとう」

 

 そう言って、手を伸ばしてくる。サードハーフを楽しむべく、僕らはレストランへと向かった。

 

 勝者にも敗者にも、まだシーズンは終わらない。

 

 サラセンズは、来る土曜日にチャレンジカップを勝ったばかりのノーザンプトン・セインツとのプレミアシップ決勝が残っている。

 

 トゥーロンは、同じく土曜日に、昨年と同じカストル相手のトップ14の決勝がパリで待っている。ヨーロッパチャンピオンの称号にも、選手、スタッフの間には、達成感は感じられても、去年のように気が抜ける感じはない。 「まだ、大きなことをやり遂げる途中のハーフタイムに過ぎない。おれたちに失敗は許されない。23年間、トゥーロンの街全体がフランスチャンピオンのタイトルを待っている」。クラブ会長のムラッド・ブジェラルは試合の翌日そう話し、前年の悪夢を思い出す。「去年は、何の偶然かカストルと同じホテルだった。エレベーターの中でブレニュス盾を持ったカストルの選手やスタッフと一緒になるのは拷問だった。最後には、階段を使ったよ」と得意のウィットを効かせた後で真顔になる。「カストルはコメディアンじゃない。去年は下に見ていた。2度と同じミスはしない」。

 

 ここ2年続けて決勝で敗れているトゥーロン。3度目の正直でブレニュス盾を手にした時、ハイネケンカップとトップ14の2冠という、誰も成し遂げたことのない偉業も達成される。

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