top of page

ハイネケンカップ決勝 —ヨーロッパ最強クラブはトゥーロンか、サラセンズか—

2014/05/19

 昨年は準決勝だった。

 

 2014年5月24日土曜日。カーディフはミレニアムスタジアム。来シーズンからは、ヨーロッパラグビーチャンピオンズカップとして生まれ変わることになるため、最後となるハイネケンカップの決勝。フランスクラブとして初めて連覇を目指すディフェンディングチャンピオンのトゥーロンが、日本代表菊谷崇の加入で日本でも注目を集めたサラセンズとヨーロッパクラブチャンピオンの座をかけて対戦する。

 

 昨年は準決勝で相見えた両チーム。共に武器とする堅いチームディフェンスを反映しノートライに終わったゲームは、元イングランド代表スタンドオフ、33歳のジョニー・ウィルキンソンがチーム総得点の24得点をその左足で叩き出し、同じくサラセンズの全12点をペナルティキックでマークした21歳、現代表10番のオーウェン・ファレルにレッスンを与える形になった。イングランド新旧スタンドオフ対決ということ以外に試合前からメディアの熱い視線が注がれていたもう1つの理由が、ブリティッシュアンドアイリッシュライオンズの夏のオーストラリア遠征メンバー発表を数日後に控えていたウォレン・ガトランドにとって、最後まで決まらずにいたジョナサン・セクストンともう一人のスタンドオフを、2人のうちどちらから選ぶ最後の機会だったこと。最終的には、ガトランドの電話による直接の懇願にもかかわらず、若い選手に経験を積ませるべきというウィルキンソン自身の意思に加え、遠征の出発がハイネケンカップ決勝の翌日に予定されていたこともあり、ファレルにその椅子を譲ることになるのだが、「これでガトランドは、今誰がナンバーワンのスタンドオフかわかっただろう」とコメンテーターに言わしめた、キックだけでなく完全に試合をコントロールしたそのゲームメイクは、いまだトゥイッケナムの王様はウィルコだと思い知らしめるものだった。73分にファレルの激しいチャージを受けながらも沈めた、試合を決めた37mのドロップゴールは、タックルを受けて倒れたウィルコがファレルを慰めるべく、「いいか、今のはちょっと運が良かっただけさ」と言いながら肩を叩くシーンと相まって、英仏のサポーターの間では今も語り種。トゥーロンはそのままの勢いで初めてのハイネケンカップを手にし、一方のサラセンズはその傷が癒えずに、レギュラーシーズンを1位で終えていたにもかかわらず、2週間後のプレミアシップのプレーオフ準決勝で4位のノーサンプトン・セインツに破れ無冠でシーズンを終えることとなった。

 

 その轍を踏まえて、今季のサラセンズは大きな進歩を遂げた。以前までの、3次4次のアタックまでサインが決まっていてそれでゲインできなければキックという、「退屈サラセンズ」とまで呼ばれていたお堅い守備偏重のプレースタイルからの脱皮を図り、ウィングのデイヴィッド・ストレットルが言うようにアッタクで「前よりもリスクを冒す」ようになったその結果は、プレミアシップレコードのシーズン87ポイント。10試合でオフェンシブボーナスを獲得し、1試合平均トライ数は3。ほとんどのポジションに2人ずつ代表選手を揃え、圧倒的な戦い振りで19勝3敗でレギュラーシーズンを終えると、17日に行われたプレーオフの準決勝でも同じロンドンのハーレクインズを31−17と圧倒。最高の状態で今週末の決勝に臨む。

 

 一方のトゥーロンは、シーズン中盤に調子を落としたものの、過去にない混戦となったトップ14で後半調子を上げ最終的にはシーズン1位で終えると、先週末に行われたプレーオフの準決勝でも、ラシン・メトロ相手に苦しんだものの、我慢強いらしい戦い振りで振り切り、ハイネケンカップの連覇と、トップ14を合わせた2冠に望みを繋いだ。また、チームのキャプテンであり、ラグビー界全体から尊敬を集めるウィルキンソンが、今日正式に今季限りでの引退を表明。チームメイトもサポーターも、「ジョニー」に最高の花道を送るべく1つになっている。

 

 チームカラーはともに赤と黒。土曜日のミレニアムスタジアムは、その2色に染まる。ともに自国リーグのレギュラーシーズンを1位で終え、プレーオフでも決勝進出を決めている両チーム。最後となるハイネケンカップ決勝は、正真正銘ヨーロッパ最強クラブを決める戦いになる。

Please reload

Copyright (c) kosuke hakoyama. All rights reserved.
本サイト内の記述、画像、写真の無断転載・転用を禁止します。

bottom of page