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プレミアシッププレーオフ決勝 ノーサンプトンがサラセンズを破る。 —ディラン・ハートリーは1年越しの借りを返す—

2014/06/18

 時計は延長を含めたフルタイム100分を回っている。スコアは20−17でサラセンズがリード。トゥイッケナムの巨大スクリーンに、両軍の選手が入り交じったポスト下のラックの隙間を縫って、セインツプロップのウォーラーがサラセンズのインゴールにボールを滑り込ませようとしている映像が様々な角度から何度も映し出される。長過ぎる3分の間に、試合終了の笛を前にして選手はノーサイドの握手を始めている。ビデオレフェリーのヒューズ氏がトライを認める旨を主審のドイル氏に伝えその右腕が上がるのと同時に、ノーサンプトンの選手とスタッフ、そしてファンの喜びが爆発した。

 

 最終スコアは24−20。レギュラーシーズン2位のノーサンプトンセインツが、プレミアシップのシーズン勝ち点のレコードを作って独走したサラセンズを破り、一週間前の欧州チャレンジカップの決勝に続き2冠目を手にした。一方のサリーズは、同じく前週のハイネケンカップ決勝でトゥーロンに負けたのに続き、2週続けて決勝で涙を呑むことになった。

 

  ちょうど一年前のレスターとの決勝。セインツキャプテンのディラン・ハートリーは、前半終了間際にとられたスクラムでの反則の際に「くそったれのインチキ」と言ったのが審判への暴言ととられ、その場で退場。戦犯に祭り上げられ、選ばれていた直後のブリティッシュアンドアイリッシュライオンズのツアーも出場停止となった。今年は、肩の怪我で2ヶ月試合から離れていたため後半54分からの出場となったが、その存在感を示し、延長までもつれ込んだゲームでチームをオーバータイムでの逆転勝利に導いた。「オレたちは歴史を創った。すごいことさ。ここ数年のハードワークの証明だよ。シーズン中は毎週月曜日、オレたちはチャンピオンになるんだと話していた」。

 

 「負けるということがどういうことが知っているし、一番の喜びは、負けを味わってこそ掴めるものだということもね」と、ヘッドコーチのジム・マリンダーは前年の経験が生きたことを強調すると、念願の初優勝の喜びを表現した。「本当にほっとしたよ。先週にアムリンカップを手にしたときも嬉しかったけど、予定表の一番上には、いつもこの決勝があったから」。

 

 一方で、62分のトライが主審に認められた後で、ビデオレフェリーの介入で取り消されるなど、きわどいビデオ判定に泣くことになったサラセンズのヘッド・コーチであるマーク・マッコールは、判定には黙って引退を勝利で飾ることが出来なかったチームの主将、リチャード・ボースウィックに餞の言葉を贈った。「私が話したいのは自分のチームのことだけだよ。スティーブ・ボースウィックはもっといい最後に値したか?たぶんね。でもあいつがそれについて文句を言うことはない」。この後は、フォワードコーチとして正式に日本代表のスタッフに加わることが決まっているボースウィック。イングランド代表57キャップ、プレミアシップ265試合出場を誇り、すべてのチームでキャプテンを務めた彼の経験が、ジャパンにもたらしてくれるものに期待したい。

 

 ともに下馬評では有利と言われていた2つの決勝を落としたサラセンズ。62分の幻のトライ直後に喜んでボールを蹴り上げたはずみに足をつって交代を余儀なくされたスタンドオフのオーウェン・ファレルに象徴されるように、ここ一番で成熟度の不足を露呈した。チームの戦力はヨーロッパでも1、2を争うロンドナーにとって、ワールドカップも控える来シーズンどこまでファレルが大人になれるかがタイトル奪還の鍵となる。

 

 セインツは、決勝から二日後の月曜日、ジム・マリンダーと新たに2019年までの5年契約を結んだことを発表した。2007年からヘッドコーチを務めるマリンダーに対する、クラブの絶対の信頼の証だろう。

 

 来季もまた、この2チームがプレミアシップの中心にいるのは間違いない。

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