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イングランドがウェールズに仕掛ける場外戦? –プレミアシップ、プレミアクラブ所属の外国人代表選手のワールドカップに向けた各国代表キャンプ合流を拒否−

2015/04/20

 自国開催のワールドカップでどうしても結果を出したいイングランドが、なりふり構わない手に打って出た。

 

 アビバプレミアシップの運営母体であるプレミアラグビーは先週、ワールドカップ前の各国代表選手の代表チーム合流に関して「ルール通りに行う」ことを強調。

 

 ワールドラグビーの規定では、大会開始日の5週間前まではクラブ側には選手を代表のためにリリースする義務はなく、9月18日に開幕する今回のワールドカップでいえば、8月13日まではクラブ側に選手を拘束する権利があることになる。もし発表の通り各クラブが強硬姿勢を貫けば、プレミアシップでプレーする各国代表選手は夏前から始まる所属クラブの新シーズンに向けた練習への参加を強いられ、国によっては6月半ばから始まる自国の代表合宿に参加できないだけでなく、ワールドカップ前の大事な最後の実践練習となるいくつかのフレンドリーマッチも欠場せざるをえなくなる。

 

 イングランド代表選手に限っては、イングランドラグビー協会とプレミアラグビーの間で、代表選手を供出するクラグへの金銭補償の代わりに代表の招集を優先する協定が結ばれており、イングランド代表選手は問題なく7月からのアメリカ、デンバーでの高地キャンプに参加が可能となっている。

 

 当然このルールは世界中のリーグに当てはまり、もし他国リーグがプレミアシップに沿った動きを見せれば、プレミアシップ同様、代表選手はクラブに残ることを強いられることになるが、現在のところ、多くの「外国人代表選手」を抱えるフランスのトップ14は各クラブとも代表選手を拘束する動きは見せておらず、プロ12も同様の構え。また、どちらにせよ、「特例」を除いて国内リーグでプレーする選手のみを代表選考の対象としているイングランド代表が影響を被ることはない。

 

 プレミアシップのこの動きで最も痛手を受けるのが、イングランドに多くの代表選手を送り込んでいる南半球のフィジー、トンガ、サモア、アルゼンチンとともに、代表の核となる数人のプレーヤーがプレミアシップでプレーしているウェールズとスコットランド。特にウェールズとフィジーはワールドカップ本番で、オーストラリア、ウルグアイとともに、イングランドと同じ「死のA組」に入っており、イングランドが、自国開催のワールドカップでの予選敗退という大惨事を避けるためにライバルの2チーム、特にオーストラリアとともに決勝トーナメント進出の2つの椅子を3チームで争うライバルであるウェールズを狙ったものと、穿った見方が出るのも無理はない。

 

 グロスターのフッカーリチャード・ヒバード、来季のバース移籍が決まっているリース・プリーストランド、ワスプスのロックブラッドリー・デイヴィス、サラセンズの1番リース・ジルに、アダム・ジョーンズの代表引退とサムソン・リーの怪我で危機的状況にある右プロップの救世主と期待されている代表キャップゼロのトーマス・フランシスらがプレミアシップでプレーしているウェールズ代表にとっては(ノーサンプトンのジョージ・ノースは、契約時に代表を優先させる条項を盛り込んでおり、代表合流が可能)、7月初めからスイスとカタールで連続してキャンプを行うことになっており、8月8日には一つ目の親善試合となるアイルランド戦が控えていて、プレミアシップの決定は受け入れがたい。

 

 現状では、ウェールズ協会とプレミアラグビーとの間で打開策を見つけるための交渉が行われる余地もあるが、もし金銭補償での「貸し出し」ということになれば、経済的に余裕のない南半球の各国協会には打つ手がなくなる。

 

 完全プロ化した今日のラグビー界では、選手のサラリーを払っているのはクラブであり、優先権はクラブにある。その状況に対抗するために、ニュージーランドとオーストラリアが先駆けてやっているように、選手が代表活動を優先できるよう協会が直接選手と契約し自国リーグに囲い込むという動き(クラブとの二重契約)がウェールズ、アイルランド、南アフリカ、アルゼンチンなど他の上位国でも進みつつあるが、経済的に全ての選手との契約は不可能な上、現在最もリッチなフランスと日本が提示する高額契約には敵わないのが現実。また、いつ怪我でキャリアが終わるかもわからない短い選手生活の中で、選手が最も稼げるところに行くのはプロとしてある意味当然で、海外流出を防ぐのは簡単ではない。また、自国にプロリーグをもたない小国にとっては不可能な注文となる。

 

 今回の場外戦はそれらの問題点が浮き彫りになった格好だが、ワールドカップは選手にとっては4年に一度の夢舞台。ファンにとっても、両チームがベストの状態で戦ってこそ楽しめるというもの。プレミアシップは他国リーグ同様、ここはジェントルマンらしく紳士協定を守って、黙って選手を送り出してあげてほしいのだが。

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