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IRB、代表選出条件を変更 –再び2つの国の代表ジャージを着ることが可能に–

2014/08/06

 「もしクリス・マソエやケイシー・ラウララといった選手が7人制ラグビーでサモアのために戦うことを選んで、その後で同じジャージで15人制のワールドカップに出るのであれば、彼らは正式にその資格を持つことになる」。女子ラグビーワールドカップの開催に合わせてパリを訪れていた国際ラグビーボードの会長であるブレット・ゴスパーが、数週間前から話題となっていた代表選出条件の変更に関してそう明言した。

 

 マソエもラウララもサモア生まれの元オールブラック。最後に黒衣のジャージをまとってからもう何年も経つが、2人ともいまだにヨーロッパのトップクラブでレギュラーを張るバリバリの現役プレーヤー。今回のルール変更は、一度ある国(実際には「協会」という言葉を使った方が正しい)のフル代表でプレーした選手は、二度と別の国の代表としてプレーすることはできないとした現行のルールを緩和するものとなる。

 

 条件は当該国のパスポートを有していて、前代表国での最後のテストマッチから18ヶ月以上が経っていること。その上で新しい代表国の選手として7人制の国際大会かオリンピックの予選でプレーすれば、15人制においても同代表でのプレーが認められるというもの。一定の国に3年以上居住すれば国籍の有無に関係なくその国の代表としてのプレー資格を得られるというラグビー特有の3年条項のために、以前は時期を分けて2つの異なった国の代表としてプレーする選手も多く、ジャパンにおいても元オールブラックスの選手が日本代表としてワールドカップに出たりして物議を醸し出したこともあった。そのような事情もあり、IRBは代表ジャージの重みを守るために「1カ国規定」を策定したわけだが、今回の決定はそれを大きく変えるビッグバン的な変化となる。

 

 特に以前から、優秀なタレントを確保したいニュージーランドとオーストラリアの両ラグビー協会に若いうちから囲い込まれた、サモア、フィジー、トンガといったアイランダーズの選手が、夢であったオールブラックスやワラビーズでのデビューを飾った後、結局数試合しかプレーしないまま残りのキャリアを自国代表としてプレーする機会を奪われてしまうことに関して 疑問の声があり、今回の変更はそういった選手たちへの救済措置という見方も当然できるが、実際にはIRBが進める世界中での更なるラグビー普及のための商業的戦略と見た方がしっくりくる。

 

 一番重要な点は、まず7人制の公式大会においてプレーしなければいけないということ。これは、リオデジャネイロオリンピックでの採用も決まり、現在ラグビーが盛んでない地域でのラグビー普及の手段としてIRBが力を入れている7人制ラグビーにビッグネームを呼び込むのが狙いなのは明らか。ただの救済措置なら7人制でのプレーを義務づける必要はない。つまり15人制の「母国」のジャージを餌に、7人制ラグビーの宣伝を選手に求めているわけだ。また、国籍条項もキーポイント。最初の代表国に関しては今まで同様3年条項のみが適用されるが、2つ目の代表国に関しては国籍が必要となる。これは、「国や地域の代表」としてプレーすることに意義を見つける国籍主義のオリンピック精神に添ったもので、7人制ラグビーのオリンピック定着を望むIRBの国際オリンピック委員会に対するアピールである。

 

 実際の二重代表資格獲得に関しては、IRBがそれぞれの選手に対して10月までに個々に判断を下すとしているが、それでも、いまだにワールドカップでプレーすることを夢見る「元代表」選手にとっては嬉しいニュース。所属クラブとの兼ね合いもある上、2015年ワールドカップまでに残された時間も少なくおいそれとはいかないことを理解しつつも、 日本でもプレーした元オールブラックのアンソニー・ツイタヴァキは、同じトンガ出身のシタレキ・ティマニやリフェイミ・マフィらとその可能性を話し合っていると言い、ワールドカップへの思いを語る。「個人的にはもっと早くこうなってくれれば良かったと思うよ。オレはニュージーランドで生まれて、オールブラックになる夢があった。その夢は叶えたけど、残念ながらもう遥か昔のことだ。ワールドカップに出場して世界のトップと戦うという夢が、今叶おうとしている。家族や先祖の名誉にもなるだろうし、おれたちが持っている経験を伝えて祖国がさらに成長するのを助けることも出来るはず。ラグビーがオレたちに与えてくれたものを少しでも返せればと思うよ」。

 

 日本でも大活躍のジョージ・スミスやセールのサム・トゥイトゥポもトンガ代表としてプレーすることが可能になり、ジョー・ロコソコとシチベニ・シビバツをフィジーのジャージで見られるかもしれない。来年のワールドカップでサモアと一緒のプールに入った日本にとっても脅威となりかねないルール変更でも、長い目で見ればパシフィックネイションズの国々のレベルが上がるのはジャパンにとっても有益なはず。そしてなにより、選手にとって「代表ジャージ」と「ワールドカップ」は、いつだって最高の響きを持つ。

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