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世界最強クラブ決定戦?−第1回ラグビーマスターズ開催−

2015/02/04

 売られた喧嘩は買う。

 

 それが、貧しいアルジェリア移民の子としてトゥーロンの下町で育ち、フランスで3番目の漫画出版社ソレイユを造り上げた、トゥーロン会長ムラッド・ブジェラルの流儀(先日のシャルリー・エブドの襲撃で殺された漫画家シャルブとティヌスの元編集者でもあり、殺された風刺画家たちは20年来の友人だった)。テレビの生討論で、外国人排斥を掲げる極右の国粋主義政党国民戦線(そんな政党がお国の第3政党というところに今この国が抱える問題がある)の人種差別主義者(外国人だけでなく、フランス国籍でもイロの違う移民なら同様に嫌いだ)の党首マリン・ルペンに「呆れるほど下品な成金」「甚だ怪しいキャリアの左派気取りの百万長者」と中傷されれば、臆することなく名誉毀損で裁判を吹っ掛ける。そんなブジェラルが、歴代最高のスプリングボックとも言われる元南アフリカ代表キャプテンジョン・スミットからの公開挑戦状を受けないわけがない。

 

 2シーズン前のハイネケンカップ獲得後から、スーパーラグビーの優勝チームとハイネケンカップの優勝チームでの、『南半球最強クラブ対北半球最強クラブの世界最強クラブ決定戦』の開催を提案し、実際開催に向けて動いていたブジェラル。ラグビー界の課題として未だ残る両半球の日程のズレなどもあり、なかなか実現できずにいたのだが、ハイネケンカップ2連覇にトップ14優勝という2冠を達成した後の今シーズンは、スーパーラグビーで優勝したワラタスが試合の開催に前向きな姿勢を示し、開催が現実味を帯びていた。

 

 そんな11月、横槍を入れたのがナタール・シャークス。一昨年現役を引退し、現在はクラブで役員を務める元南アフリカ代表キャプテンで、111キャップを誇るジョン・スミットが、「ハイネケンカップを勝つのはスーパーラグビーでタイトルを取るのより簡単さ。トゥーロン、2014年の南アフリカカンファレンスチャンピオンと1試合やるってのはどうだ?」とツイッターで挑発。ワラタスとの調整がなかなか進んでいなかったこともあり、当然ブジェラルはすぐさま反応。「この発言はいささか場違いに思えるな。個人的には、『ジョーズ』1、2、3を見たけど、怖くなかった。だからナタール・シャークスが俺を怖がらせるってことはない。ベルナール・ラポルト(監督)にも話したら、『もし彼らがチャンピオンとやりたいのなら、どこでも、いつでも好きなところで好きなときに』って言ったよ。もし彼らが本当に2冠が簡単だと思うなら、チームを送ってくればいい、俺たちはうちのを送るよ。どこでも、いつでも、彼らの好きなように…」と話し、クラブのオフィシャルサイトで、上記の写真と共に「俺たちは、2月5日、ラグビーするためにお前たちを待ってるよ…」と挑戦を受けることを正式に発表。今回の『ラグビー・マスターズ』開催となった。

 

 実際のところは、ワールドラグビーの管轄外の試合であり、公式な位置づけは単なる練習試合でしかない。その上、北半球と南半球が異なるカレンダーで動いている現状では、ただでさえ試合過多が叫ばれる状況で日程調整が難しく、試合が行われるのはシックスネイションズ開幕前日の木曜日。当然トゥーロン側はウェールズ代表リー・ハーフペニー、イタリア代表マルティン・カストロジョヴァンニ、フランス代表のアレクサンドル・メニーニ、ギレム・ギラド、マチュー・バスタロ、ロマン・タオフィフェヌニュアら各国代表選手が不在な上、シーズン真っ只中ということでフォワードコーチのジャック・デルマスも認めるように選手には疲労が溜まっており、 バッキース・ボタ、セバスチアン・ティルズボルド、マット・ギトー、フレデリック・ミシャラク、マキシム・メルモーズら多くの主力が怪我で不在。

 

 一方のシャークスは、スーパーラグビーのシーズン開幕を1週間後に控え、シーズン前のトレーニングが終わったばかりで、チームの連携を確かめている状況。「勝った方が自分たちは世界一だとは言えない。IRBの大会でもないし。それにもし自分たちが勝ったとしても、トゥーロンがベストメンバーでないのは知っている。怪我人も多いし、代表でいない選手もいる」とビスマルク・デュプレシが語るように、世界最強クラブ決定戦と呼ぶにはちと早い。それでもテンダイ・ムタワリラは「トゥーロンには元スプリングボクスがたくさんいるから、南アフリカでも多くの人がこの試合を観る。それに、シーズン前のトレーニングを終えたばかりの俺たちにとっては、とても重要なゲームになる。来週ホームにチーターズを迎えるから、いい試合をしないといけない」と軽く捉える様子はない。

 

 今回はワラタスとの試合は叶わず、また日程調整や選手とクラブのモチベーションの問題など、改善すべき点は幾つもあるが、欧州チャンピオンズカップの王者とスーパーラグビーの優勝チームという夢のマッチメイクが真剣勝負で見られるのなら、ファンにとっては垂涎もの。わざわざメディアなどでも「第1回」を強調しているところをみると、来シーズン以降も続けたいというブジェラルの意思が垣間見える。来季もトゥーロンが出場するためには今年から名称変更した欧州チャンピオンズカップの初代王者となって欧州カップ3連覇を達成することが条件になるが、そうならないにしてもこのイベントがいつか世界のラグビーカレンダーに加えられるほどになって本人の名前が残ることになれば、目立ちたがり屋のブジェラルのこと、きっと本望だろう。

 

 アンチブジェラルやアンチトゥーロンのファンの間では、トゥーロンの南半球出身の外国人選手の多さを皮肉って、「南半球のクラブ対南半球のクラブ」などと呼ぶ声もあるが、とにかく開催にこぎつけただけでも1回目の価値はある。とりあえず今年は、シックスネイションズのアペリティフとして、肩に力を入れずに楽しみたい。

 

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