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シックス・ネイションズ 2014プレビュー

2014/01/30

 ヨーロッパラグビーの冬の風物詩、シックス・ネイションズが2月1日に幕を開ける。2015年のイングランドでのワールドカップまで2年を切り、各国にとっては重要なテストの場となる。

 

 2011年ワールドカップに合わせて若返りを成功させ、2012年はグランドスラム、2013年も大会優勝を飾り、「赤い悪魔」の異名を取り戻したウェールズが、イタリア加入後参加国が6カ国になってからは初めてとなる3連覇に挑む中、ワールドカップ後に世代交代を図り2シーズンにわたり新たなチーム作りに励んできた残りの5カ国は、ワールドカップに向けてその手応えを掴みたいところ。

 

 フランス代表監督であるフィリップ・サンタンドレは「試験期間は終わり。今回は結果を出さなければならない」と、2勝8敗1分けという、夏のニュージランド遠征があったにせよ壊滅的と言ってもいい結果に終わった昨シーズンからの挽回を今大会で目指す。フランスラグビー協会とフランスプロリーグの間で協定が結ばれ、今回初めて代表チームはシックス・ネイションズ前に2週間の直前合宿を組むことができるようになった。大半の代表選手は直前のトップ14の試合からは外され、「去年は、準備が万全ではなかった。試合の前の週に、それぞれ、木曜日、金曜日、土曜日に試合があった選手がいて、疲労度がまちまちだった」とプロップのヤニック・フォレスティエが語るように、前年とは違いリフレッシュして準備に専念できている。逆に言えば、もう言い訳は許されないということ。それがサンタンドレの言葉であり、開幕戦となるイングランド相手の「クランチ」が、今年のブルーを占う重要な一戦となる。

 

 ラグビーがプロ化して以降、ブリティッシュ・アンド・アイリッシュ・ライオンズの遠征があった翌年は、常にフランスが勝っているという事実を踏まえ、「確かにフランスが優勝候補の一角であると考えるのは正しいだろう」と、ウェールズ監督ウォーレン・ガトランドも答えているが、センターのジョナサン・デイヴィスを怪我で、ロックのイアン・エヴァンスは出場停止で欠きつつも、若いチームで挑んだ前回ワールドカップで不運な4位に終わって以降、シックス・ネイションズ連覇を含め結果を出し、自信と経験を深めつつあるチームは当然3連覇を狙っている。怪我で出場が危ぶまれていたキャプテンのウォーバートンも何とか間に合い、昨夏オーストラリアにて自らの指揮でライオンズを勝利に導いた名将の目には、当然銀色のトロフィーが映る。「シックス・ネイションズではすべて自信とダイナミズム次第。勝つのは簡単ではない。少しの運も必要だ。ただ、もしすべてが揃えばうまくやれる。」

 

 そのウェールズのホームグラウンド、カーディフのミレニアムスタジアムに初戦で乗り込むのがイタリア代表。2011年ワールドカップ終了後のシーズンにフランス人であるジャック・ブリュネルが就任して以来、コンタクトと密集での戦いを好みやや守備に重きを置いていた伝統的なスタイルから、ボールを動かしアタックの比重を増し、攻守のバランスの取れたラグビーへの脱皮を図っており、昨季の6カ国対抗ではフランスとアイルランドを破り、イングランドにあと一歩まで迫るなどの躍進を見せたが、昨夏の遠征以降は1勝5敗といいところがない。「ラテン系だからさ。ラテン系はこうなんだよ。多分自分たちのパフォーマンスに満足してしまったんだ」ブリュネルは続ける。「それでも、もっとバランスの取れたスタイルへと向かおうとするチームの統一感は感じる。いくつかのステップは超えたけど、登り続けるためには、時々息抜きするために下りないと。十分息抜きしたと思いたい」。昨季ほどの結果を残すのは難しいことを認めつつも、19ヶ月後に迫ったワールドカップを睨みつつ戦わなければならないことはわかっている。「シンプルさ。ワールドカップまであと2年残っている。つまり16試合、それに直前の調整マッチが2ゲーム、合わせて18試合。本当に、本当にあっという間だよ。明日だ。それでも、多くの若い選手が経験を積んでいる」。今季ペルピニャンで、フランス代表のカミーユ・ロペスの怪我をうけ頭角を現した、スタンドオフのトンマーゾ・アラン、トレビソのセンター、ミケーレ・カンパニャロら若手がどれだけやれるかが、ワールドカップの出来に関わってくることになる。

 

 アイルランドは、今シーズン終了後の引退を表明している6カ国対抗で歴代最多の25トライを決め、いまやヨーロッパラグビー界では生きる伝説でもあるブライアン・オドリスコルの花道を何とか飾りたいところ。キース・アールズ、ショーン・オブライアンらを欠くなか、レインスターを2011年,2012年と2年連続ハイネケン・カップ優勝に導き、2013年も欧州チャレンジカップを制したのを手みやげに、昨年7月に代表監督の座についたジョー・シュミットの采配にも注目が集まる。シックス・ネイションズを初めて戦うことになる名将は、「何が起こるかわからないから、少し緊張しているよ。私が持っているイメージは、1試合のそれではなくて、大イベントといった感じだから」と控えめだが、昨秋のテストマッチで、ラストプレーで逆転されるまでオールブラックスと競り合った手応えは、監督も選手も感じているはず。ウェールズ、イングランド、フランスの3強の命運を左右するのは、シャムロックかもしれない。

 

 昨季の6カ国対抗では、初めてナショナルチームでスクラムハーフに固定されたグレイグ・レイドロー、フルバック、スチュアート・ホッグら若手の活躍もありイタリア、アイルランドを破り3位と2006年以降最高の成績を残したスコットランドだが、6月の南アフリカ遠征では、ホッグ、リッチー・グレイ、ショーン・マイトランドをライオンズツアーで欠いたこともあり、サモアにスコットランド史上初めての敗戦を喫したのに続き、スプリングボクスにも破れた後、3戦目のイタリア戦をラストプレーで逆転勝ちし、1勝2敗。秋のテストマッチでは、日本には大勝したものの、南アとオーストラリアには後塵を拝した。スコットランドラグビー協会は昨年5月に、現在フランスのクレルモンフェランで監督を務めるヴァーン・コッターが、2014年6月より2013年以降臨時監督を務めるスコット・ジョンソンに替わってワールドカップに向けた指揮を執ることを発表しており、協会、チーム、ジョンソン、コッターはチームの方向性を保つべく密に連絡をとってはいるが、まだまだチーム作りの途上である感は否めない。ただ、ジョンソンの就任以来、より攻撃的なチームに変貌を遂げつつあり、「私のワインセラーのワインのように、年齢を重ねるとともに良くなっている」とジョンソンが賞賛を惜しまないショーン・ラモンに、ホッグとマイトランドを加えたバックスリーのアタックは魅力的。現状ではイタリアに次ぐ最下位候補という見方が大勢を占めるが、どのチームにとっても簡単な相手にはならないだろう。

 

 2年後の本国でのワールドカップにて2度目の戴冠を義務づけられているイングランドは、2012年のスチュアート・ランカスターの監督就任以降、若返りを進めながらチームの熟成を図ってきた。最も大きな変化は、13年の長きにわたり10番を背負い4度のワールドカップを戦ったジョニー・ウィルキンソンの代表引退を受け、サラセンズのオーウェン・ファレルを一番手のスタンドオフとして据えたこと。13人制及び15人制の元イングランド代表であり、現在ランカスターの下で代表のアシスタントコーチを務めるアンディ・ファレルを父に持つ弱冠22歳のサラブレッドは、今季もプレミアシップで首位を走るチームを牽引し、代表でもそれなりの結果を出してはいるが、母国を2年後のワールドカップ優勝に導くにはまだ心許ない。ファレルにとっては今大会がワールドカップに向けての重要な試金石となる。 バックスではツイランギ、フォデン、ヤード、ウェイドらを怪我で欠きつつも、今のイングランドは若い才能の宝庫。共に初キャップとなるジャック・ノウェルとルーサー・バレルは20歳と26歳。23歳のジョニー・メイは2キャップ目だが、それぞれその実力は既にプレミアシップで実証済み。伝統の強力フォワードは健在、ウェールズと並んで、優勝候補の筆頭であることに間違いないだろう。

 

 ひと月半にわたる真冬のレースが最終日の3月15日を迎える頃には、寒いヨーロッパでも長い冬の終わりを感じられる。毎年、スタジアムを埋めるサポーターの熱狂が冬を追いやるのである。微かな春の匂いを感じながら、どのチームが歓喜の雄叫びを上げるのか、今年もまた目が離せない。

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