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シックス・ネイションズ2014 フランス、下馬評を覆しイングランドを破る —フレンチフレアーが筋肉に勝つ—

2014/02/03

 スタッド・ド・フランスにこだまする「Allez les bleus !! Allez les bleus !!(アレ・レ・ブルー !!アレ・レ・ブルー !! 英訳「Go Blues !!」、「レ・ブルー」は、ラグビーに限らずすべてのスポーツにおいて、青をナショナルカラーとするフランス代表の愛称)」の声が、ナイジェル・オーウェンスの試合終了を告げるホイッスルが吹かれた後も鳴り止まない。

 

 ほんの5分前には、数少ないイングランドサポーターの歌う陽気なスウィング・ロウ・スウィート・チャリオットが、沈むスタジアムに響いていた。「正直言って、76分にスウィング・ロウ・スウィート・チャリオットをスタッド・ド・フランスで聞いた時には、これはマズいなって思ったよ」フランス代表監督フィリップ・サンタンドレは打ち明ける。「80メートルの奇跡のトライが必要だなと、隣にいたスタッフに振り返って言ったんだ。そうしたら選手たちはそれを狙いにいった。彼らを褒めるべきだよ。困難な状況で、プレーを切らずに継続させた」。

 

 19対24とリードされた75分、弱冠19歳のガエル・フィクーがセンターのマチュー・バスタロに代えて投入される。直後の自陣20メートル付近でのマイボールスクラムからの左オープンのリスタートを、残り時間を考えスタンドオフのプリソンは蹴らず、パスを選択。ここから、7つのラック、1つのパント、1つのオフロードを挟んで、グラウンド全体を使って走り切ったフランスは最後に、代わって入ったばかりのフィクーが左サイドを走り切ってゴール中央にトライ。58分より交代で入っていたスクラムハーフのマキシム・マシュノーが落ち着いてコンバージョンを決め、26対24と、最後の最後で逆転に成功した。2分間に及んだアタックで唯一のキックも、ポゼッションを確保すべくディフェンスラインと相手フルバックの相手の間に落としたショートパントで、ボールを動かしつつ保持して繋ごうとするチームの意思統一と勇気は見事だった。これは、フランスラグビー協会と国内リーグ協会が手を組み、今年より初めて直前に2週間の合宿を行えることになったことも大きい。2週間の合宿で、スタッフ、選手間同士の統一感は遥かに高まり、肉体的にも最善の準備ができるようになった。1週間前に国内リーグの試合を戦っていたら、 76分に右サイドを25メートル駆上がったニャンガのゲインは体力的に不可能だったろうし、フッカーでありながら見事なステップで1人を振り切り、もう1人のディフェンスを引き付けてから正確なラストパスをフィクーに通したディミトリ・ザルゼウスキーの技術は、反復練習の賜物だろう。「ディミトリがいい仕事をしてくれたから、後は、間違いなくボールをゴール中央まで運ぶことだけを考えてた」とは、一躍ヒーローになったフィクー。

 

 ただ、試合全体を見れば、イングランドが目を覚ました30分以降は相手強力フォワードに押し込まれ、内容では下回っていたは明らか。指揮官も、「30分から70分の間は、ディフェンスが前に出るのをやめ、受けに回った。自分たちより重い相手に、後手に回って守ってはいけない」と認めている。それでも、悪くなかったイングランド相手に最終ラウンドの殴り合いで勝ったことは評価できる。フランスのがむしゃらながらも冷静な判断を備えた執拗なアタックが、イングランドを完全に息切れさせノックアウトした。何より、フランスらしい勝ち方で勝ったことで、サポーターにもチームにも、失いかけていた自信と勢いをもたらしたことは大きい。

 

 両国のメディアでも、試合前はイングランド有利が囁かれ、特に自国のメディアからは厳しい批判にさらされていたサンタンドレは、試合翌日の記者会見で、就任以来初めてのクランチでの勝利にそのスカイブルーの目を細めて言った。「昨夜、あるイギリス人からとてもいいセリフを聞いたよ。『筋肉がフレンチフレアーに負けた』って。確かに筋肉は必要だけどね・・・」。

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