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シックス・ネイションズ2014 アイルランド–ウェールズ —アイルランドが因縁の試合に完勝—

2014/02/11

 三つ葉のクローバーとネギの対決。

 

 こう聞くと何とも肩の力が抜けてしまうが、今年のアイルランドとウェールズの対決は、例年にも増して試合前から熱かった。原因は、昨年夏のブリティッシュ・アンド・アイリッシュ・ライオンズのオーストラリア遠征第3戦、1勝1敗で迎えた最終戦で、アイルランドの生ける伝説ブライアン・オドリスコルが、当時ライオンズの指揮を執っていたウェールズ監督ガトランドによってベンチからも外されたこと。祖国の英雄に対する侮辱的とも言っていい采配にアイルランド国民は熱り立ち、昨年9月には、「まだガトランドに腹を立てているかって?当たり前だろ、死ぬほど恨んでるよ。クリスマスカードを送る相手の中に彼が入るかっていうと、その可能性はほとんどないだろうね」と、オドリスコル自身もインタビューで答えるなど、アイルランドではほとんどナショナルアフェアー級の騒ぎとなった。

 

 それでも、9月末に英国首相デイヴィッド・キャメロンの公邸にライオンズのスタッフとメンバーが遠征の勝利を祝して招かれた折には、オドリスコルが受付にガトランドに宛てた短い手紙を残し、その後ガトランドがオドリスコルにクリスマスカードを送ったことで、2人の間ではわだかまりは消えたようだった。「あのおふざけ好きのドンチャ・ライアンが電話してきて、クリスマスカードをブライアンに送れって言うんだよ。だから、ブライアンと彼の家族に新年を祝うカードを送って、同時にアビバでアイルランドサポーターが私たち相手にあまり口笛を吹かないように訴えてくれるよう頼んだんだ。ドンチャのジョークは気に入ったよ。もうすべて水に流したよ」。

 

 両国のメディアは「リベンジマッチ」を煽りたがり、試合の1週間前に「ウォーレン・ガトランドを倒すチームの一員でありたいね」とオドリスコルが言えば、すぐに飛びついたが、「この試合は、私とブライアンの対決と見てしまうには重要過ぎる。私たちは2人ともページをめくった。もう次ぎに行こう」と、自身オドリスコルに初キャップを与えた元アイルランド代表監督が制すれば、「ウォーレンに対して何の恨みもないよ。時間とともに傷は癒えた。自分にとっては、これはもう終わったことだ」とオドリスコルも意に介す様子はなかった。

 

 ただ、今シーズン限りでの引退を表明している35歳の母国のヒーローに花道を飾って欲しいアイリッシュサポーターは、3連覇をグランドスラムで飾りたい優勝候補相手の1戦に、否応無しに盛り上がった。ともにライオンズ遠征を戦ったウェールズのプロップ、アダム・ジョーンズも、「彼らがどれだけ熱くなるか、想像はできているよ」と試合前に語っていた。両チームのベンチ入メンバーの中で、ライオンズの遠征に参加したのは合わせて21人。また、アイルランド監督のジョー・シュミットは、選手時代に同じチームとして1度、対戦相手として1度ガトランドと戦っており、またアシスタントコーチとしても1度相見えており、良く知った者同士の戦いとなった。

 

 ダブリン名物の雨の下、ジョナサン・セクストンのキックオフで始まった試合が動いたのは前半8分。アイルランドの左ウィング、デイヴィッド・カーニーが3人のディフェンスを振り切った後で得たペナルティゴールを、セクストンが落ち着いて決め先制。試合を象徴したのは、11分のシーン。アイルランドが敵陣35メートル付近の左ラインアウトから右に展開、スコット・ウィリアムズのハードタックルを受けたオドリスコルは倒れ込み、そのまましばらく起き上がれない。しかし、結局交代を余儀なくされたのは肩を痛めたウィリアムズの方。17分にもペナルティゴールを決めたアイルランドは、32分にはラインアウトモールを押し込んでヘンリーがトライ。セクストンのコンバージョンで13対0として前半を折り返す。ウェールズは、すべての局面でアイルランドのプレッシャーに圧倒されミスを繰り返し、ラインアウトではマイボールをキープできない。後半に入り雨が強まる中、45分セクストンがペナルティゴールを決めると、やっとウェールズも持ち味であるボール回しを発揮し始めるが、56分に得た反則をハーフペニーが決めるのがやっと。その後も、ジョー・シュミットの就任以来、チームとしてのまとまりと正確さを増したアイルランドのしつこく堅いディフェンスは綻びを見せることはなく、59分にペナルティゴールを加え、終了間際にも相手陣20メートル付近のラインアウトからゴールライン直前までモールで押し、パディ・ジャクソンが最後に抜け出しトライ。コンバージョンを加え、26対3で試合終了のホイッスル。アイルランドのタックル成功率は94%、試合全体を通して圧倒したモールは6度ウェールズを押し込み、ターンオーバーでのボール奪取はウェールズの3に対し10を数えた。ウェールズは16個もの反則を献上し、数字を見てもディフェンディングチャンピオンの完敗は明白。ガトランドは試合後、就任以来最悪のゲームだったと認めざるを得なかった。

 

 2月の冷たい雨の土曜日の午後、これ以上ない試合を見せてくれたチームのおかげで、アイリッシュサポーターたちは大いに溜飲を下げたはず。前日の会見でアダム・ジョーンズが言っていた。「ライオンズのツアーで一緒になって以来、アイルランドの選手のことは知っている。何の嫌悪感もないよ。でも、俺たちは彼らに勝ちたい、それは確かだよ。土曜日はとてもフィジカルだろう。でも、試合後には彼らとパイントを飲むのを楽しみにしているよ。それがこのスポーツのいい所さ。お互いに殴り合った後で、握手してビールを飲める。何のわだかまりも残らないよ」。アイリッシュサポーターも、数杯のパイントとともに、オドリスコルとガトランドの因縁を忘れるだろう。

 

 最後に。三つ葉のクローバーは、シャムロックと呼ばれるアイルランドの国花。当然ラグビー代表チームのシンボルでもある。ネギはウェールズ代表のシンボル。日本では正確には西洋ネギ、リーキと呼ばれる種類のものだが、見た目には日本のネギとほぼ一緒。スタジアムでは、これを手に観戦するサポーターも少なくない。

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