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イタリア–スコットランド —裏天王山—

2014/02/21

 「ジャン・バ 」 人は、親しみを込めて彼をそう呼ぶ。 ジャン・バティスト・ラフォン。ウィング、フルバックとして、83年から93年までフランス代表として37キャップを数え、91年のW杯では最多トライゲッター。クラブチームでも、90年にパリを本拠地とするラシン・クラブ・ド・フランス(現ラシン・メトロ92)でフランスチャンピオンに輝くなど、れっきとした元「名選手」である。また、まだ当時アマチュアスポーツであったラグビーがプロになる移行期の真っ只中でプレーし、中にはプロ化の波に飲み込まれ引退後に路頭に迷う選手もでてくる中で、ラシンのチームメイトであり、優勝時のバックラインを共に構成していたフランク・メスネル、エリック・ブラン、フィリップ・ギラール、イヴォン・ルッセ(ちなみに彼らとジャン・バはShowbizzというバンドもやっていた)とともに、今や30カ国以上にブティックを構えるブランド「エデンパーク」(ラグビーからインスパイアされたデザインのおしゃれな服飾ブランド。ちなみにシンボルマークはピンクの蝶ネクタイ。スローガンは「必要最小限だけズラせ」。当然ラグビーのステップと、微かにフレンチタッチな他とは一線を画すブランドイメージを掛けている)を共同で創設し、また自身はワインのネゴシアンとしても成功し、現在ボルドーで社長を務めている。
 
 一方で、選手時代からお祭り好きで知られ、チームメイトとともにやらかしたいたずらは数知れず、バイヨンヌ(以前村田亘も在籍したバスク地方のクラブ)での試合で、相手チームの過去の名選手に敬意を表してベレー帽(バスクの象徴)を冠って入場したり(パリジャンが田舎者をからかったという話も…)、コンドームの着用を訴えるためにプラスチックの帽子を頭に乗っけて登場したり、ジャージの上に背広を羽織ってグラウンドに入場というのもあった。尻も見せたし、試合前のウォーミングアップにトランプをしたことも。90年の決勝では、キックオフ直前のセレモニーで当時のミッテラン大統領に彼らの象徴であったピンクの蝶ネクタイをジャン・バ自らがプレゼント。当然ラシンの選手は全員蝶ネクタイ着用のままプレーし、ハーフタイムには、怪我で欠場のイヴォン・ルッセが、給仕の格好でシャンパンボトルとシャンパングラスを盆にのせて登場(当時は、選手はロッカールームに戻らず、グラウンドに残っていた)。選手はシャンパンで喉を潤し見事にブレニュス盾を手にした。
 
 そんなジャン・バ、スター性も抜群でしゃべりも面白く、現在ユーロスポーツのラグビー番組である「Au Contact(オー・コンタクト)」で、オリビエ・マーニュ(90キャップ。現フランス20歳以下代表フォワードコーチ)、グザヴィエ・ガルバジョーザ(32キャップ。99年ワールドカップの準決勝で、ロムーに何度も道を譲った当時金髪のフルバック。地毛は黒)、アブデラティフ・ベナジ(78キャップ。ちなみにモロッコ代表として1キャップを併せ持つ)らと共にコメンテーターを務めている。歯に衣着せぬ発言は相変わらずな上、生放送の番組中も、いつもはっきりわかる陽気な赤ら顔。グーグルでジャン・パティスト・ラフォンの名を検索しようとすると、もれなく「アル中」「酔っぱらい」というキーワードがついてくる。そんなジャン・バが第1節終了後の2月2日の放送で宣ったのが以下のセリフ。
 
 「何がいいかって、前夜にパーティーやって、あんまり寝てなくて、美味い朝食食べて、犬の散歩行って、農家直送のチキン昼に食った後で、アイルランド対スコットランド戦見ようとテレビの前に座っても、起きてるのなんて無理 !!すげえよく眠れちゃうよ !!それが言いたかったのよ」とアブデルの爆笑を誘う横で続けて、「おれが要約してやるよ。スコットランドは1000年間アタックし続けられるけど、絶対にトライ取れない」
 
 そして1週間後。フランスと相対したイタリアの敗戦を受けては、「もしイタリアがいいバックラインを持っていたら—本当にいい、最高のライン—、あれだけ接点でボール奪えてるのに。効率、悪過ぎだろ。ちょっとスコットランドっぽいぞ。スコットランドは1000年だけど、イタリアは500年。イタリアはトライ取ったけどな」
 
 ああ、ジャン・バ。言いたい放題。
 
 それでも、残念ながらジャン・バの言葉は簡潔で的を射ている。スコットランドは他国に比べて劣るフォワードが密集で常に劣勢に立たされる上、アタック面での決まり事をあまり決めないスコット・ジョンソンの方針で、たとえボールをキープして攻撃の局面が続いても、なかなかゲインできずにいると経験に劣るバックス陣が結局自滅する形になってしまう。一方のイタリアは、フランスフォワード相手にすら競り勝った強力フォワード陣の奮闘を、経験も技術も欠ける若いバックス陣がまだまだ十分に活かせない。
 
 この試合に負けた方が、全敗での最下位を示す「ウッドスプーン」に大きく前進してしまう、まさしく裏天王山。ホームイタリア有利の下馬評だが、スコットランドも無様な試合は見せられない。500年と1000年の試合がどんな様相を見せるのか、裏天王山にも見所あり。前日は早めに寝て、試合前のチキンとアルコールは控えめにして、テレビの前で待つことにしよう。
 
 ああ、試合よりも、ジャン・バの話になってしまった・・・
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