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イングランド–アイルランド —アイルランドはどうして負けたのか—

2014/02/27

 第1節、ホームでフランスが劇的な試合でイングランドを破った直後、メインディッシュを一番最初に食べてしまったかもしれないという想いが過ったが、さすがはシックスネイションズ、そんな不安は杞憂にすぎなかった。

 

 トゥイッケナムでのイングランド対アイルランド戦の試合後、お腹一杯にならなかったのは、アイルランドの選手たちとサポーターだけだろう(選手は別の意味でお腹一杯だったかもしれないが)。「稀に見るテストマッチ。最高級。両チームともすばらしい水準と激しさを見せた」とガーディアンが持ち上げれば、フランスではテレビ解説をつとめていた元フランス代表スクラムハーフで、現在はアタッキング・ラグビーを掲げモンペリエで監督を務めるファビアン・ガルティエが、「点はそんなに入らなかったけど、これが本当に質の高い、本当のラグビーの試合」と珍しく褒めちぎった。

 

 スコットランドに続きウェールズも破る最高のスタートを切ったアイルランドは、最後のシックスネイションズとなるブライアン・オドリスコルにグランドスラムの可能性とトリプルクラウン(イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランドの旧ホームネイションズの4カ国間で、全勝したチームに贈られる称号)を贈るべく、トゥイッケナムに乗り込んだ。

 

 接点の争いでフォワードが優位に立ち、伝統のモールはイングランドを粉砕。スクラムでも4度相手ボールを奪い、前半は5分5分だったボールと陣地のポゼッションも、後半はそれぞれ66%と61%とアイルランドが上回った。アイルランドの117のタックル数に対し、イングランドは163。いかにアウェイチームが攻勢だったかがわかる。ニュージーランド人であるジョー・シュミットの監督就任以来、我慢を覚え堅実さを増したディフェンスは、イングランドを1トライのみの13点に抑えた。それでも、イングランドの英雄的なディフェンスもあったとはいえ、終わってみれば10点に抑えられての敗戦。選手の身体能力と守備システムが昔と比べ遥かに向上した現代ラグビーの典型とも言えるロースコアの試合で、命運を分けたのはたった1つのミスだった。

 

 アイルランドは、3点をリードされて迎えた後半、2分を待たずに、シュミットがレンスター時代から何度も使っていたコンビネーションで、ロブ・カーニーが中央にトライ。コンバージョンも決まり7対3とリードを奪う。しかし、オコネルが試合後に語ったように、ここから小さなミスが続き、徐々に受け身に回ってしまう。そして、49分にペナルティゴールを追加した後、ファレルのペナルティで10対6と迫られた直後のリスタートのキックオフ。ジョナサン・セクストンのドロップキックは、直接タッチラインを割ってしまう。直後のグラウンド中央でのイングランドボールのスクラム。イングランドにもミスがでるが、結局そのまま繋がれてマイク・ブラウンのビッグゲインを許し、最後はダニー・ケアがトライ。以降は、イングランドの身体を張ったディフェンスにも阻まれ、スコアは動くことなく10-13でノーサイドのホイッスル。

 

 シュミットは「マイクのたった1つのゲインで試合が決まってしまった。10対3のリードを守りきれなかったことには、本当にがっかりしているよ」と述べたが、セクストンのらしくないミスキックがなければ、防げたトライだったはず。フォワードコーチであるジョン・プラムトゥリーが、「モールにこだわり過ぎずにもっとボールを回すべきだった」と後悔しているように、セクストン1人に責任を負わすのは酷だろう。ただ、ナショナルチーム同士がぶつかるテストマッチで、両チームが最高のパフォーマンスを見せれば、たった1つのミスが命取りになるのも確か。それは、今季から移籍したフランスのラシン・メトロで月に5万2000ユーロ(約730万)もの高給を受け取る28歳の司令塔も、身に染みて理解しているはず。

 

 「私が後ろを振り返るたった1つの理由は、前に進むためだ」数日後の記者会見で、シュミットは言った。幸いにも、まだ優勝の可能性は残されている。オドリスコルの花道を飾るべく、アイルランドは進み続ける。

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