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スコットランドの憂鬱

2014/03/11

 「またか。」「やっぱり。」

 

 ジャンマルク・ドゥサンのペナルティキックがポストの間を通り過ぎていくのを見ながら、そんな声が至る所で聞こえたはず。3月8日のマレーフィールド。残り時間3分を切って1点リードのスコットランドは、フランスのアタックの圧力に耐え切れず 、よりによってゴール正面のラックで、堪らずノットリリースザボール。8年振りのフランス戦勝利は、この瞬間に消えた。試合前には、60年代にスコットランド代表として25キャップを数え、84年と90年のグランドスラムにはチームスタッフとして関わっていたジム・テルファーが、「正直言って、どうやったらフランスが勝てるのかわからない。もちろん、フランスは我々を驚かすだろうけど、彼らと対戦するのには慣れている。もしスコットランドがフランスに勝てなかったら、つまりスコットランドは本当に良くないということだろう」とまで言い放っていたのだが・・・。

 

 1871年にエディンバラのレイバーンパレスにイングランド代表を迎えて、ラグビー史上初めての国際試合であるテストマッチを戦ってから140年以上。1984年、90年にはグランドスラム、99年にも最後の5カ国対抗を勝っている古豪は長い冬に沈んでいる。2000年以降、昨年までのテストマッチの成績は56勝89敗2分け。シックスネイションズでは、04年と12年の「ウッドスプーン」を含め、イタリアとの最下位争いが指定席。現在のIRBでの世界ランキングは10位となっている。

 

 7万8千平方キロメートルの国土に、人口530万ほどの小国のラグビー競技人口は4万8千(日本は12万5千)。「私たちの環境はイングランドやフランスとは違う。羨んでも仕方がない。あるものでやらなきゃいけないんだよ」と、臨時監督を務めるスコット・ジョンソンは穏やかな表情で言う。他国では、ラグビー協会が広大な敷地と最先端の設備を備えた自らの練習施設を持つ中、ホームのエディンバラにフランスを迎えるスコットランドチームが合宿を張ったのは、市内の大学キャンパス。スクラム練習では、日本の高校でも見るスクラムマシーンに毛が生えた程度のものに、マシーンを押さない選手が乗っかったものを押しているというのが現状。ホームグラウンドであるマレーフィールドの芝は、「まるで英国近衛騎兵隊が通った後」とイングランド代表のアシスタントコーチであるアンディ・ファレルに酷評され、同じくイングランドフルバックのマイク・ブラウンは「代表同士のテストマッチには相応しくない」と言い切った。フランス戦後の、人工芝と自然芝の融合した新しいピッチへの全面張り替えが決まっているが、スコットランドラグビーを取り巻く環境は変わらず厳しい。

 

 一方で、2年前のジョンソンの臨時ヘッドコーチ就任以来、フルバック、スチュアート・ホッグ、スタンドオフのダンカン・ウィアーや、ウイングのトミー・シーモア、ティム・ヴィサー、センターのアレックス・ダンバーら若手が台頭し、今大会でもフランカーの、ライアン・ウィルソンやクリス・フサロなど、新しい才能が芽を出しており、代表チームの未来は暗くない。2014年6月のヘッドコーチ就任が決まっている、現在フランスのクレルモンで監督をつとめるヴァーン・コッターに掛かる期待は大きい。「コッターは確かなヴィジョンを持っている。チームに明晰さをもたらしてくれるはずだ」と、1989、93、97,2009年にアイリッシュ・アンド・ブリティッシュ・ライオンズのヘッドコーチを務めた名将イアン・マクギーチャンは評価する。過去3監督には協会が選んだコーチングスタッフを押し付けるという失態を犯したスコットランドラグビー協会は、その轍を踏まえ、今回コッターには自らのコーチングスタッフの選択権を与えた。ワールドカップまでにコッターに残される時間は1年余り。スコットランドに春はやってくるだろうか。

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