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迷子のフランス –シックスネイションズレビュー–

2014/03/31

 まあ、らしいと言えば、らしい戦いぶりだった。下馬評では圧倒的に不利と見られていた初戦のクランチを、後半36分に80メートルを2分以上かけて駆け上がる久しぶりのフレンチフレア溢れるトライで勝利。次戦は、昨季から不調の続くイタリア相手に、「何の意味もない勝利」とメディアに叩かれつつも、2連勝。3戦目は、前節でアイルランド相手に完敗していたウェールズ相手ということもあり流れに乗るかと思われたが、「ミレニアムスタジアムの雰囲気に飲まれ」27対6の完敗。大会を通じてイタリア相手の1勝に留まったスコットランド相手には、必勝を期されたゲームにもかかわらず、お寒いゲーム内容で後半38分のペナルティゴールで2点差の冷や汗ものの勝利。悲観論ばかりが聞こえるなかでの最終戦は、やっと「解き放たれ」て、ボールも選手も動く目指すラグビーに近い形が出て、優勝したアイルランドを最後まで苦しめた。 追いつめられた時こそ本領発揮とは聞こえがいいが、常にロープを背負わないと吹っ切れないというのは、チームに自信と準備が不足している証拠とも言える。

 

 「プレーの意図と激しさの部分でもっと安定性を保てるようにしたい。先週のスコットランド相手のパフォーマンスと昨日のを比べると、自分たちは本当にフランス人なんだなと思うよ。」と監督のフィリップ・サンタンドレはアイルランド戦の翌日語っており、バックスコーチであるパトリス・ラジスケも「試合の入りがうまくいかなかった時や想定外の試合展開となってしまった時に、バックス陣の自信のなさが露呈してしまった」と打ち明けた。トップレベルのテストマッチにおけるプレッシャーのコントロールを学ばせるために、外部からの人材登用も検討されているが、現状は白紙の状態。サンタンドレの就任以来2年間で、69人の選手が試され、試されたスクラムハーフとスタンドオフの組み合わせは12通り。今大会でも、ハーフがジャン・マルク・ドゥサン、スタンドオフが初キャップとなったジュール・プリソンという組み合わせで始まったが、最終的にはマキシム・マシュノーとレミー・タレスのハーフ陣だった。我慢してプリソンを4試合続けて使ったのは評価できるし、カミーユ・ロペスとタレスは怪我、フレデリック・ミシャラクは所属チームではほとんどスクラムハーフとしてプレー、去年までスタメンのハーフだったモルガン・パラは怪我から復帰したかと思ったらクラブでの試合でのラフプレーで出場停止と、サンタンドレが嘆くのも分からなくもないが、チームの核となるポジションがいまだ定まらない状況では、チームに自信と安定性を求めるのは難しい。また、2011年にはIRBの年間最優秀選手にも選ばれ、2009年からブルーのキャプテンを務めるティエリ・デュソトワールが怪我で大会を欠場したのも影響した。代わりにキャプテンを務めたパスカル・パペは元々一兵卒でいる方がいいタイプ。サンタンドレは大会を通じてよくやったと讃えたが、ウェールズとのゲームではフランス語を話すレフェリーのアラン・ロランに「友達言葉」でしゃべり続け、不動のナンバーエイトであるルイ・ピカモルにいたっては、提示されたイエローカードに対して嫌みの拍手を送るなどし、国際試合最後の笛となった「ムッシュー・ロラン」に試合後、「フランス人選手には、いらつかせられたよ」と言われる始末。大会前には、サンタンドレ自身が「テスト期間は終わり。今回は結果が求められる」と話していたのだが、続出した負傷者の影響もあり、結局チームの骨格を作り上げることが出来ないまま終わってしまった。

 また、精神的な面だけでなく、技術的にも改善を余儀なくされる部分が目についた。セットプレーにおいては、今季より導入されたスクラムに関する新しい指針により、世界最強と言われたスクラムが今大会ではどのチームにも押し込まれた上、ラインアウトの成功率も80パーセントを切った。また、アイルランド戦では、決定的な場面でそれほど難しくないパスが2度スローフォワードになるなど、スキルの面でも弱さを見せた。1999年から2007年までフランス代表の監督を務め、現在フランスのトゥーロンでヘッドコーチ務めるベルナール・ラポルトは、「全員が責任を持たないといけない。結果が示してるよ。フランスラグビーはもうヨーロッパレベルでは勝てない。このフランスラグビーの弱さの責任は、各クラブの監督も取らなきゃいけない。おれたちがヨーロッパで勝てない選手を送り出しているんだから。おれたちの仕事が良くないのかもしれない。誰もが考えないといけない。」と、ラグビー協会とプロリーグ機構の足並みがなかなか揃わないフランスラグビー界の現況も踏まえて指摘する。

 

 それでも、アイルランド戦で見せたラグビーは、名門トゥールーズで20年近くにわたって監督をつとめるギイ・ノヴェズに、「プレッシャーから解き放たれた時は、すばらしいものが見られるというのがわかった。負けた悔しさはあるけど、この先に夢を与えたのは大きい」と言わしめるものだった。ワールドカップまですでに1年半を切り、いまだ迷走を続けるトリコロール。自信のためには経験。サンタンドレも言うように、今大会の負けを無駄にしないためにも夏のオーストラリア遠征が重要なものになる。

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