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改革を待つスコットランド —シックスネイションズレビュー—

2014/04/11

 大会最後となったスコットランドとの試合前に、歯に絹着せぬ言動で知られるウェールズ監督のウォレン・ガトランドが、シックスネイションズの上位4カ国と残りの2カ国の間にははっきりしたレベルの差があると公式会見で発言した。残りの2カ国とは、言わずと知れたイタリアとスコットランド。その言葉に自国チームの奮起を期待したスコットランドサポーターもいたはずだが、終わってみれば敵地で51-3の歴史的大敗。ここ数年のスコティッシュラグビーの現状を見せつけられれば、サポーターといえども夢を見るのは無理というもの。

 

 イタリアとともに今や6カ国対抗のお荷物となってしまったスコットランド。2000年のイタリアの加入のおかげで最下位を免れることも多いが、毎年の話題は、ウッドスプーンを避けることが出来るかどうかだけ。今年のハイライトもイタリア戦のラストプレー。スタンドオフのダンカン・ウィアーがドロップゴールを決め、20−21の劇的な逆転勝利を収めたシーン。元フランス代表フルバックで、華麗なシャンパンラグビーで魅せたジャン・バティスト・ラフォンに、「1000年経ってもトライ取れない」と揶揄されたアッタクは、大会5試合で4トライ、47得点と惨憺たる有様。最下位に終わったイタリアですら7トライで63点をマークしているのだから、病状は深刻である。

 

 実際には、スチュアート・ホッグはフルバック豊作と言われた今大会においても、現在世界最高のフルバックの1人と言われるウェールズのリー・ハーフペニーを押しのけて、次のライオンズのフルバックを担うとしたら彼という評判に恥じないプレーを見せたし(ウェールズ戦のレッドカードは除き)、怪我から復調したデイヴィッド・ダントンも以前のプレーを取り戻しつつあり、国際経験の浅いウィアーもテストマッチレベルのプレーを覚えてきており、ショーン・マイトランドとティム・ヴィサーというバックスの二枚看板を怪我で失わなければ、もう少しやれたのではとも思えるところなのだが、他国メディアが自国チームのパフォーマンス、監督の采配などを論じる中、もはやスコットランド国内ではスコットランドラグビーの在り方自体が論争の焦点となっている。

 

 2000年以来、シックスネイションズで3勝したのは1度だけ。クラブレベルでもエディンバラが2度ハイネケンカップの決勝トーナメントまで歩を進めたが、グラスゴーはいまだ1度もそのステージに立てずにいる。代表監督の首も何度か挿げ替えられたが期待した効果は出なかった。残念ながら特効薬はもはや存在せず、抜本的な改革が必要なことに誰もが気がついている。今までの失敗を糧に、長期的なプランで底上げを図っていかない限り上位国との差は開くばかりであることに、やっと協会も気がつかされた。

 

 大きな問題は、若年層におけるコンペティションが整備されていないこと。ただし、経済的に他国に大きく遅れを取るスコットランドでは、イングランドのようにすべてのプロクラブがユースチームを組織しトップレベル同様にリーグ戦を行い選手を育てるというのは不可能。クラブレベルでの育成が難しい状況で手を打たないといけないのが、スクールレベルでのラグビー環境の整備。そしてユース世代のプレーヤーのアマからプロへのステップアップをサポートすること。1995年のプロ化以降入ってくるようになった資金を、他国が協会とクラブの共同作業で底辺の拡大と世代ごとに切れ目のない育成システムの確立に有効利用したのとは対照的に、スコットランド協会はそれに失敗した。プロ化以降ほぼ20年、そのツケが今回ってきているのである。

 

 大任を担うのは現在暫定監督を務めるオーストラリア出身のスコット・ジョンソン。今夏、ヴァーン・コッターが指揮官としてやってくるのを待って、スコットランドラグビー協会内の最高責任者に就任することが決まっている。スコットランド代表監督としての仕事は成功したとは言いがたく、非難を受けることも多く、また時に辛辣なその舌鋒を嫌う向きも少なくないが、シドニーオリンピックでの自国の躍進に大きく貢献したオーストラリア国立スポーツ研究所の仕事を内側から覗いているのは大きく、また学校、クラブ、プロ、そしてオーストラリアとウェールズ代表まで、あらゆるレベルで指導をしてきた経験は、今スコットランドラグビーがまさしく必要としているものである。プロ化以降もアマチュア意識が抜けずに村社会でやってきたラグビー協会が、バラバラになっているスコットランドラグビーのミッシングリンクを見つけるべく、本当に変わることができるのか。10年後、15年後という見えない未来のための挑戦の成否は、辛口だが情熱家のオーストラリア人の腕にかかっている。

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