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期待を裏切ったウェールズ —シックスネイションズレビュー—

2014/04/29

 大会開幕前は、アイルランド、イングランドを差し置いての優勝候補。2000年のイタリア加入後6カ国対抗になってから初めての3連覇がなるかに注目が集まっていたのだが、終わってみれば期待を裏切る3位に終わった。最終節ではホームで、スチュアート・ホッグの退場で14人でのプレーを余儀なくされたスコットランドを51−3と粉砕。何とかディフェンディング・チャンピオンの面目を保った形だが、大会を通じてのパフォーマンスは、2015年のワールドカップに向けての期待を膨らませるものとは言いがたかった。

 

 ヘッドコーチであるウォレン・ガトランドはスコットランド戦後に、「ホームではいいゲームで3つ勝てて、負けた2つはアウェーだった。私たちは、自分たち自身に大きな期待をかけているし、メディアも同様にそうしてくる。でも過去3大会、15試合で12勝。ウェールズのような選手人口の少ない小国にしてみれば、悪い成績ではないと思う」と強がったが、大きな進歩を見せたアイルランドとイングランドに比べれば、チームが停滞気味なのは否めない。

 

 2011年ワールドカップ、フランスとの準決勝。キャプテンのサム・ウォーバートンを不運なレッドカードで失いつつも勇敢に戦い続けた若いチームに、世界中から賞賛が送られ、その背中に4年後のワールドカップチャンピオンを見た者も少なくなかった。あれから2年半、若かった選手たちは経験を積み、チームの成熟度は格段に増した。現にウェールズはシックスネイションズを2連覇、一方でガトランドは昨夏にブリティッシュアンドアイリッシュライオンズを従えてのオーストラリア遠征で、16年ぶりのツアー勝ち越しをもたらすなど、ヨーロッパラグビーはウェールズを中心に回っていた。それが今大会は、優勝したアイルランドと、イングランドに共にアウェーで敗れ、それまでのヨーロッパでの優位性がぐらつく結果となった。

 

 「ウォレンボール」とまで評されるそのプレースタイルの基本は、ジェイミー・ロバーツを核として、1次のアタックでゲインラインを突破しフォワードの集散を助け、バックローが可能な限り球出しを急ぎ、2次3次ではハードワークを厭わないフロントファイブがタッチライン際まで動きボールをもらい、1対1のシチュエーションを作りあげ、突破を狙うこと。基本的にはオールブラックスがやっているラグビーに近いものと思えばいい。センターにはロバーツとジョナサン・デイヴィス、ウィングには共に1メートル90を優に超え、100キロを超すアレックス・カスバートとウェールズのジョナ・ロムーとも呼ばれるジョージ・ノースを並べ、素材としてもニュージーランドに引けを取らないのだが、ウェールズの伝統である選手もボールもグラウンド中を動き続けるラグビーは、選手のサイズアップとともに、若干失われた感がある。

 

 2011年のワールドカップ以降、個々のプレーヤーの質は上がったが、ゲームプラン自体には目を見張る進歩はなく、ひらめきに欠ける単調な試合運びが、一部の「ウォレンボール」批判に繋がっている。また、ここまであまり選手の入れ替えをせずにきたことに対して、ワールドカップに向けて新しい血を求める声も多く、「代表選手は、『もしいいプレーをしなかったら、来週はあいつがオレのジャージを着るかもしれない』、と思い続ける必要がある」と、現在は日本でプレーするウェールズの「伝説」シェーン・ウィリアムスも大会後に指摘している。

 

 大会後の批判にも、ガトランドはそのスタイルを変えるつもりがないことを明言している。だが、「オールブラックスの良くできたコピー」では、いつまでたっても本家を追い越せない。イングランドとオーストラリアと同じ死の組を突破し、自身の母国であるニュージーランドを破ってウェブエリストロフィーに手をかけるためには、このままではいけないことは今や世界最高の戦術家の1人と言われる男にも当然わかっている。どんな手を繰り出すのか。ゲームメイクのマイナーチェンジか。新しい選手を試すのか。6月の南アフリカ遠征で、その一端が垣間見られるはず。

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