top of page

レンスターPro12連覇 —ブライアン・オドリスコル引退を優勝で飾る—

2014/06/13

 「週に一回晴れればいい方で、でもってそれが週末に重なるなんて奇跡なようなもの」、とダブリン在住の友人が嘆いていたが、5月最後の土曜日は、いつもは雨粒に濡れているレンスターのホームグラウンド、ロイヤルダブリンソサエティの空に穏やかな陽光が射していた。

 

 Pro12プレーオフ決勝、レンスター対グラスゴーウォリアーズ。Pro12の発足以来初めてスコットランドのクラブとして決勝まで進んだグラスゴーが、前年の覇者で今季のレギュラーシーズンも1位で終えた王者を倒し初めてキルトの国にトロフィーをもたらすか。それとも今季限りでの引退を表明していたアイルランドの英雄ブライアン・オドリスコルが自らその花道を飾るのかに注目が集まったが、どちらも望んだような結末にはならなかった。

 

 今季のグラスゴーはスコットランド代表を多く揃え(と言っても、スコットランドのトッププロクラブはグラスゴーとエジンバラの2つだけなので、必然的にそうなるわけだが)、自陣深いところからでも極力キックを使わずに細かいパスやオフロードを絡めてアタックを継続するというラグビーで、ヨーロッパのクラブの中で一番ボールとプレーヤーが動くラグビーをシーズン通して見せ、レギュラーシーズン2位という好結果を残し、プレーオフ準決勝でもマンスターの追撃を振り切ってみせた。

 

 決勝でも圧倒的本命のレンスター相手にグラスゴーらしいラグビーで、60分まで12−14と健闘を見せたが、以降はアイリッシュのスピードと圧力に圧倒され最終スコアは12−34。欧州のカップ戦においてもPro12においても決勝という舞台を知り尽くしたレンスターと、初めての決勝だったグラスゴーの、ゲームマネージメント能力の差も大きな要因となった。

 

 アイルランド代表キャップ133、46トライは、同国最多。ブリティッシュアンドアイリッシュライオンズのキャップも含めた141キャップは、ジョージ・グレーガンを抜いて世界最多。クローバーの伝説の13番、ブライアン・オドリスコルのラストゲームに、ダブリンはおろか、アイルランド全体の視線が集まったが、試合開始後わずか8分に負傷交代を余儀なくされるという、ファンにとっても、オドリスコル本人にとっても残念な結末になってしまった。「いつもおれが言っていたように、ラグビーの試合では予定なんて立てられない。起こるものは起こるんだよ。じたばたしても仕方がない。たった8分しかプレーできなくて、おれにとっての最後はいい日じゃなかった。でも」そう言って、オドリスコルは歓喜に溢れるグラウンドのチームメイトと超満員のスタンドを穏やかな笑顔で見やる。「これがすべてさ」。

 

 「寂しくなるよ。仲間と一緒にいて、笑って。自分に対して向かってくるものがあるから、それに立ち向かえるように毎日身体を苛めて。そんなことが恋しくなるだろう、今まであった応援も含めてね。相互的な関係だったんだと思う。おれたちがサポーターを作り出して、一方で、おれたちにとってはサポーターの応援が力になって。」

 

 それでも、BOD(ニックネーム。Brian O’Driscollの頭をとってBOD)がラグビーから完全に離れることはないはず。「何か仕事はするよ。何でもやるよ。このままじゃ一ヶ月後には無職だから。何かあれば、それをやるよ」と笑うが、今度はコーチとして戻ってくるのは万人の承知のところ。

 

 ラグビーというものは、その選手が誰かなんて気にしない。何を成し遂げて、どんな存在なのかなんて知る由もない。彼が何を望んでいるかになんてほとんど興味はない。ただの気まぐれで冷たいヤツなのかもしれない。そんなことを、ファンもオドリスコルも再び思い知らされて、ゆっくりと家路につく。それでも、いつだって、みんなまたグラウンドに戻ってくる。

Please reload

  • Wix Facebook page
  • Wix Twitter page

Copyright (c) kosuke hakoyama. All rights reserved.
本サイト内の記述、画像、写真の無断転載・転用を禁止します。

bottom of page