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フランスラグビー界を覆うドーピングの闇 —ドーピングの存在を明言した元代表選手を、選手会が提訴—

2014/07/23

 6月27日、元フランス代表のローラン・ベネゼクは法廷で再び、フランスラグビー界にはドーピングが存在するという自らの発言を繰り返した。

 

 話は2013年3月に遡る。国会において、フランス反ドーピング機構のトップであるフランソワーズ・ランが、2012年に国内で行われたすべてのドーピング検査によれば、「陽性反応を示した割合(全体数では自転車競技から最も多くの陽性検体が検出されたが、被検体数は1812。一方でラグビーは588の検体数で22の陽性反応)、はラグビーが最も高く、以下、陸上競技、トライアスロン、バスケット、自転車競技、ハンドボール、水泳と続く」と発言。

 

 これがフランススポーツ界に大きな波紋を巻き起こした。フランスではラグビーはサッカーに次ぐ人気スポーツ。まして、グラウンド内外での選手の不適切な言動に事欠かず倫理的にダメスポーツの烙印を押されたサッカーや、ここ数年のドーピング問題で「どうせ勝っているヤツはみんなドーピング」といった眼で見られている自転車とは違い、「ラグビー精神」という言葉が今でも普通に聞かれるように、クリーンでポジティブ、しっかりしつけもされているイメージで、好感度は一番高い。それが、「最も汚染されている」と国会の場で糾弾されたのだから、ラグビー界は穏やかでない。ラグビー協会、プロリーグ機構、そして選手会は、それぞれ公式にランの答弁に対する不満を現す声明を発表し説明を求めると同時に、「異常」と「ドーピング違反」を混ぜこぜにすべきでないとし、22の異常の内訳を直ちに公表。9つが大麻の陽性反応。3つは許可を受けていた治療で、3つが鼻詰まり用の点鼻薬で、2つは咳止めのコデイン。残りの3つは指定の日時に検査の場にいなかったことで、18ヶ月以上の出場停止となった「重大なドーピング違反」はプロD2(2部リーグ。プロ)とフェデラル2(4部リーグ。ノンプロ)の2件のみとし、選手会会長であるセルジュ・シモンは「もしたった2つのドーピング違反でフランススポーツ界最悪のパーセンテージだって言うなら、それは我が国のスポーツ界にとっては素晴らしいニュースだ」と皮肉った。反ドーピング機構側も、たった1年分の検査結果だけでは何とも言えず、いかなる競技も批判するつもりがなかっことを強調した。

 

 それでも、ランの発言を受けて、以前には短期ながら日本代表監督も務めたこともある元フランス代表ジャン=ピエール・エリサルドが、現役時代にアンフェタミンを使用したことがあることを告白。ただし、個人的使用だったとし、選手及び指導者としての長いキャリアの中で、ラグビー界での組織的なドーピングは見たことがないと言い張った。

 

 そんな中、4月に日刊紙「ル・モンド」と週2で発行されるラグビー専門紙「ミディ・オランピック」が、フランスラグビー界に蔓延るドーピングを指摘する元フランス代表プロップ、ローラン・ベネゼクのインタビューを掲載。「ラグビー選手に会う時、もっと言えばチーム全体を見た時、例えば、彼らの顎の発達具合は、明らかにヒト成長ホルモンの影響を示している。ラグビーというスポーツの発展と長期における選手の健康に関して、心配せざるを得ない」と、短期間での身体的変化を禁止薬物によるものとし、現役の代表選手の実名を出してドーピングを指摘。選手会側はベネゼクに話し合いを求めたが、ベネゼクは発言を覆すことを受け入れず、選手会は134選手が連名でベネゼクを告訴するに至った。

 

 「この状態を告発したかった。もししっかりとコントロールされていて、その危険がわかっているなら、いくつかの医療行為の実践に関しては反対ではない。問題は、選手がドーピングをしているかを知ることではない。彼らが自らの健康を危険にさらしているということだ」。1995年のワールドカップ出場時には、自らもフランス代表チームにて自分の知らないうちにドーピングを受けていたと推測するベネゼクは(当時の協会会長、監督、チームドクターはそろって否定)、ラグビー界のドーピングは組織的に行われていると弾劾し、「治療目的」として、チームドクターから渡される薬が最たるものとし、ティエリー・デュソトワール、フレデリック・ミシャラク、ニコラ・マスらを含む現代表選手の写真を証拠として提出。その急激な肉体の変化は、ドーピングによるもの以外にありえないと言及。ベネゼク側の証人として出廷したフランス反ドーピング機構顧問のミシェル・リウー教授は「いかなるスポーツもドーピングから逃れられない」と明言。ラグビー界で行われている生物学的パスポートを使った各選手ごとの長期的な監視に関しては、事故(ドーピング検査)が起こる前に問題を見つける「車検と同じようなもの」とし、自分たち(ラグビー界)でドーピングを見つけ、公になる前に内々でもみ消すためのドーピング検査対策だとの見方を示した。同じく証人として呼ばれたドーピングの専門家であるレキップ紙記者のダミアン・ルシオは、自転車界のフェスティナの薬物禍を例に挙げ、現在のラグビー界の状況を「悲惨な薬物スキャンダル」の一歩手前とまで表現した。

 

 選手会側のただ1人の証人となったフランスラグビー協会理事のジャン=クロード・ペラン医師の返答は、「ラグビー界にドーピングがないとは言わない。ただ、プロリーグに組織的なドーピングは存在しない」と、何とも説得力に欠ける。うがった見方—というよりラグビーを愛する者の真摯な視線—をすれば、クラブ主導の組織的なドーピングはしていないが、選手の「自主性」に任せたドーピングには喜んで手を貸すということか。また、あるトッププレーヤーが語った、ドーピング検査のない育成年代では指導者自らが禁止薬物を提供しにくるという言葉を逆に証明するもののようにも聞こえてくる。

 

 いまだに村社会構造から抜け出せないところも多い各国のラグビー界。ドーピング問題はフランスだけに留まらない。(『スプリングボクス95の暗い影 —インビクタスはドーピングしていたのか—』

http://kosukehakoyama.wix.com/europeanrugby-1#!-/c12js/ht7wn3ln7)。パンドラの箱は開かれるのか。鍵となる判決は9月26日。

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