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「アイドル女優は入らない。スターはチームで、チャンピオンが必要なんだ!」−フィリップ・サンタンドレ、昂る−

2015/03/05

 常に相手をまっすぐ見つめる、ほとんど灰色に近いほど澄んだブルーの瞳に、選手時代から変わらない柔和な笑顔。知的で穏やかな話し振りに、長かった英国暮らしの賜物か、ウィットに富んだコメントで笑いを取るのもうまい。いつも何かのどに引っかかったような小さく震える声は、敗戦後のインタビューではまるで泣いているかのように聞こえてくる。選手時代はトリコロールのジャージを纏うこと68回。そのうち半分の34試合でキャプテンを務めたことでもわかるように、イギリスでもフランスでも、その人間性は誰もが認めるところ。プレミアシップのセール監督時代には、フランス人監督としてただ一人、リーグの最優秀監督にも選ばれている。3年前にフランス代表監督に就任してからも、選手を批判するようなコメントはほとんど聞いたことがなかった。

 

 そんなフィリップ・サンタンドレが、ウェールズにホームで敗れた翌日の日曜日の会見で、珍しく声の調子を上げた。

 

「3年間彼らを支え、守ってきた。でもいつかは戦って勝つことを覚えなきゃいけない。ブルーのジャージはおれたちを昇華させ、グラディエイターにさせないといけない。チームは良くなってはいる、でも結果はこの通りだ。ウェールズには4連敗。キックの成功率は50パーセントで、トライの機会は5つ。何人かの選手はトップレベルでは30分しか保たない…常に、仕事は実を結ぶものと信じてきたけど、いい加減やめないといけない。選手は3年前におれたちと一緒に始めて、今30から40キャップ持っている。もう単なる見せかけの裏に隠れるのをやめるべきだ。ラグビーは80分間戦えないといけない。そしてキャリアはメディアでの露出や写真のモデルをやりながら築くものではなくて、グラウンドで築くものだ。」

 

と、ユジェ、パラ、マエストリ、フォファナらには耳が痛くなるようなコメント。

 

 楽観主義と非難されるほどの前向きさで常にチームのポテンシャルを謳ってきた監督も、今回ばかりはそれもやめた。

 

「怪我人がいるし、次の試合のためにチームを入れ替えるかは考える。モルガン(パラ)は少なくとも膝を大きくひねった、そこまで悪くはないといいけど。センター二人は肉離れ。全員の様子を見て、チームに入れる選手を決める。水曜日にリストを発表して、イタリアに勝ちにいくための準備をするために1週間ある。自分たちがラグビー強国だと思うのをやめないといけない。世界ランキング7位で、それがおれたちの現在地だ。ウェールズには4連敗でアイルランドには一度も勝っていない。彼ら相手では苦戦することがわかったはず。スコットランドとイタリアに勝つためにも、すべてを出し切らないといけない。おれはチームのためにすべてを出し切ってグラウンドで死ねる男たちが欲しいんだ」

 

 自身に加え、バックスコーチのパトリス・ラジスケ、フォワードコーチのヤニック・ブリュを含めたコーチ陣の指導力への批判に関しては、真っ向から否定し、完全な信頼を強調。

 

「トゥールーズでヤニック・ブリュが獲ったあらゆるタイトルを見ればいい。パトリス・ラジスケも同様だ。一番タイトルが少ないのがおれだけど、一応15年間監督業をしてるし、イングランドのプレミアシップで優勝もして、欧州チャレンジカップも獲った。トゥーロンでは2部からの昇格直後でも、トップ14の準決勝まで行った。自分たちの責任の大きさは自覚しているし、3年間そうやってきた。選手にも同じ自覚を持ってほしい。おれがフランスラグビーの問題点で害悪でも構わないが、他にもあるんじゃないか?」

 

 そう言って多くの外国人選手がプレーし、自国の若手選手の出場機会が奪われているトップ14の現状を指摘。

 

「去年20歳以下の6カ国対抗でグランドスラムを達成したフランスの選手の中で、今年トップ14でちょっとばかりの出場時間を得られたのは3人だけ。どこ行ったんだ、彼らは?トップ14でプレーするためには26歳まで待たなきゃいけないのか?おれは17歳で1部リーグでプレーして、22歳でクレルモンのキャプテンだった。考えないといけない。欧州チャンピオンズカップのベスト8に残っているフランスの3クラブで、フランス人選手と外国人選手のチームを作って試合をして、どうなるか見てみればいい。確かにまだ選手を探しているよ。この3年間で80人試して、まだ続けてる。どうしてだ?怪我人の多さも見てみろ。ここまで15組ものハーフ団を試さなきゃならなかった。秋にティルズボルドを呼べば怪我。ココットを呼べば怪我。やっと調子が良くなってきたパラを呼べば、また怪我...また、誰かを呼ぶことになる。5人目か6人目か。今のラグビーは、トップレベルはゲームも日程もとてもハードだ。11月には対抗できても、6カ国対抗と6月のテストでは戦えない。それがここ3年間続いてることだ。4年前、6カ国対抗は良くなかったが、それが(ワールドカップでは)決勝だ。世界一にあれほど近づいたことはなかった。あれから、強豪国との差は開く一方。いい加減、どうしてかって考えるべきだ」

 

 全体的にミスが目立ったが、特にスタンドオフのカミーユ・ロペスは、状況判断でもキックでも脆さを露呈。

 

「ワールドカップに向けての自信はあるし、戦うよ。選手の能力を20パーセントから30パーセント、あわよくば40パーセント伸ばせるはず。ただ、今の自分たちはこのレベルだ。ディフェンス面では機能しているし、チャンスも作ってはいる。でも、もし3対1をうまくさばけないで、ゴール正面25mのペナルティゴールを外してちゃ…ロマン・トゥレをキッキングコーチとして呼んだけど…おれはジョニー・ウィルキンソンと一緒に仕事をする幸運に恵まれた。あいつにとってはキックは強迫観念だった。毎日練習してた。うちの選手は…もっと正確じゃないと。彼らも練習してるよ。でも50パーセントの成功率じゃ、最後に8点、9点足りなくなる」

 

 監督解任論が聞こえてくる状況には、再び声のトーンを上げた。

 

「選手としても、キャプテンとしても、監督としても、家族の父としても、一度も船を離れたことはない。ワールドカップで成功するチームを作るという役割を与えられたんだ。毎日そのために戦って、自分の信条のために死ぬってみんなに断言するよ。確かなことは、(ワールドカップに向けたキャンプの始まる)7月4日から、練習してさらに遠くまでいくということ。でも、世界の果てまでいく覚悟のある奴らと一緒にイギリスに行きたい。もし辛すぎると感じたり、その努力ができないんだったら、みんなおれの電話番号を持っている。おれに電話してくればいい、そしたら別の選手を呼ぶだけだ。トップ14で出場時間のない20歳のガキだって呼ぶかもしれない。でもまず戦わないと。ラグビーは戦いと謙虚さだ。アイドル女優は入らない。スターはチームで、チャンピオンが必要なんだ。おれは昨日チャンピオンを見なかった。少なくとも多くはいなかった。何人かの代表での未来は、今大会終了までのプレーに掛かっているよ」

 

 厳しい言葉を投げかけられた選手たちだが、ウイングのソフィアン・ギトゥンの以下の言葉を見れば、3年前のワールドカップでフランスチームが見せたような監督と選手の間の亀裂はない。

 

「記者会見の2分前までおれたちと一緒にいて、面と向かって同じことを言っていた。ただ、倍キツい言い方で。だから驚かなかったよ」

 

 舵を握るのは船長でも、船員たちが仕事をしなければ船は進まない。世界の果てまで行く帆を共に張れるか。

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