top of page

サモア戦を前に–南アフリカ、スコットランド戦から見えたこと–

2015 /10/02

 日本戦のコーチズボックスで、試合中には滅多に笑わないコッターが笑っていた。

 

 アタックもディフェンスも準備してきたことがすべて機能して、予選プール突破に大きく前進する勝ち点5。戦術家のコッターにとっては会心の勝利だっただろう。

 

 スコットランドにとってはワールドカップ初戦。さらに南アフリカとベスト8進出の2枚の切符を分け合うことを想定すれば、いい形で大会に入って流れを掴むためにも、ジャパンのスプリングボクス相手の勝利の前から、日本戦にしっかり焦点を合わせてきていたはず。

 

 中3日ということでスターティングメンバーを6人入れ替えた日本に比べ、スコットランドは現状でベストのメンバーを並べ、大会初戦ということで万全のコンディション。試合後には当然のようにシード国優先の試合日程を非難するエディーの声も聞こえたが、スケジュールは発表された時点でわかっていたことで、それも含めて長い準備をしてきたはず。前半の日本の出来を見ても、コンディションのハンディがあったにしても中3日でもやれたはずで、「ターンオーバーを言い訳にするつもりはないと言ったし、そのつもりもない」との試合後のエディーの言葉通り、少なくともあそこまで負けてはいけなかったが、すべてが上手くいった南ア戦と比べるといくつか違いがあった。

 

 スコットランド戦では単純なハイボールの処理や五郎丸のキック失敗も含めてミスが目立ち、前半、ペナルティをレイドローが確実に決めていくうちに少しずつ流れが相手にいってしまった。実は南ア戦でもミスはあったのだが、前半10分の比較的簡単なペナルティゴールを五郎丸が外し嫌な雰囲気になったときは、その後に南アFBカーシュナーが22mラインを踏み越えてダイレクトタッチで南アの流れが途切れ、22分にインゴールまで追い込まれたときはジャパンディフェンスの激しいプレッシャーに相手がノックオンするなど、相手のミスにも助けられ、傷口が広がらなかった。

 

 南アフリカ戦で主審を務めたガルセス氏は、トップ14でも国際レベルでも、他のレフェリーと比べてもかなりクリーンなラックを好むレフェリーで密集での判断は厳しいがクリア(イングランド−ウェールズ戦でも当然同様だった)。ボールを殺していなくても倒れ込んだボクスの選手が厳しい笛を吹かれるシーンがかなりあり、速い球出しする上でも日本にとってはやりやすかった。一方でスコットランド戦を吹いたレイシー氏は普段から頭をかしげたくなるジャッジが見られるレフェリーな上、昨日のウェールズ−フィジー戦でも同様だったが、ラックでの笛がガルセス氏よりも緩く、試合を通じても密集での判断基準が一定しない。スコットランド側はタックラーがそのままボールキャリアにかぶさってくるシーンがあり、ガルセス氏だったら、という場面がいくつかあった。

 また、日本にとっては大会2試合目ということで、レフェリーの方も日本のプレーを勉強してきていた。スクラムに関しては、相手PRネルが「南アフリカ戦での日本のスクラムはプレッシャーを受けていたし、常に腕を正しくキープしていたとは思わない」と試合前からレフェリーにプレッシャーをかける発言をしていた影響もあってか、微妙なレフェリングがあったし、堀江のノーバインドタックルが反則を取られたのも日本の低いタックルがチェックされていたからだろう。

 

 継続、展開がキーワードのジャパンだが、実はこの2試合で流れの中でトライを取ったのは、疲れ切ったスプリングボクス14人相手に取った、あの逆転サヨナラトライのみ。他はラインアウトからのドライビングモールと南ア戦の見事なセットプレーのみで、南ア戦の75分からほぼ2分40秒に渡って19フェーズを重ねたシーンでも結局トライは奪えなかった。

 

 継続プレーは組織されたディフェンスを崩すための手段な訳だが、今の整備されたディフェンスシステムでは、見せかけのジャブをいくら打ってもディフェンスの人数は減らないので崩せない。トライを取るには、強いジャブ、またはストレートを打って大きくゲインし相手の体勢を崩したとこで、続けてもう一つ速く強いパンチが必要になってくるのだが、スコットランド戦では、巧みなダミーランとパスで得たビッグゲインの後で、パスミスや判断ミスが出てことごとくトライに繋げられなかった。

 

 ただ、これは選手の身体能力が上がりディフェンスシステムが整備された今のラグビーでは、ジャパンだけでなくすべてのチームが抱える課題であり、実際南アフリカでさえ日本のディフェンスを崩し切ることは出来なかった。日本が取られたトライは、世界でも最強の南アフリカのモールと相手フォワードが突っ込んできたところでタックルにミスが出て止めきれなかったもので、システムとしては最後まで完璧に機能していた。フィジカルで劣る日本人が80分間戦えば、いくつか穴が空くのは仕方がない。

 取られる点は計算済み。だからこそ確実に点を取れる手段として、ジャパンはラインアウトとスクラム、そこからのモールとセットプレーを強化してきたわけだが、2試合で77点は取られ過ぎ。南ア戦は相手の反則の多さに助けられたが、トップレベルのゲームで30点以上取られては基本的に勝ち目は薄くなる。

 

 スコットランドが南アフリカに勝たない限りは日本の決勝トーナメント進出は絶望的だが、残念ながらコッターはプール最終戦となるサモア戦に焦点を合わせたメンバーを南ア相手に組んできた(個人的には、サモアがスコットランドに勝つ可能性よりは、ベストのスコットランドが南アに勝つ可能性の方がまだ高いと思っている)。ただ、ジャパンの選手にとってはやれることをやるだけで、士気が落ちることはないだろう。

 

 フィジカルの強いサモアに、南アフリカ戦で見せた勇気あるディフェンスを集中力を切らせることなく80分間続けられるかがまず第一条件。アタックに関しては、日本のラインアウトモールはサモアには止められないはず。あとはボーナス獲得のために、オープンプレーで「何次」にこだわらず、ビッグゲインのあとの攻撃をどれだけトライに結びつけられるか。

 

 世界を驚かせ、感動させたジャパンウェイをもう一度見たい。

Please reload

  • Wix Facebook page
  • Wix Twitter page

Copyright (c) kosuke hakoyama. All rights reserved.
本サイト内の記述、画像、写真の無断転載・転用を禁止します。

bottom of page