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フレンチフレアの消えたブルー、奇跡を起こせるか。

2015/10/16

 パリには日本人のみを専門に相手にする精神科医がいるのをご存知だろうか。

 

 最新のモード、美しい街並、エレガントでレディーファーストな白馬に乗った王子様を夢見て花の都にやってきたものの、常に汚く臭いメトロやバス(と人)、道端の至る所に溢れる犬の糞(パリでは原付に掃除機を合体させたようなバキュームカーならぬバキュームバイクを駆る清掃員が毎日街中の至る所で犬の糞を一つ一つ吸い上げている)、マッチョで繊細さに欠け信用できないフランス人といった現実を目の当たりにし、思い描いていた理想との余りのギャップに心の病にかかってしまう日本人女性が多いためである。

 

 どんなものでも外から見ていたイメージと実際の中身が同じとは限らない。

 

 予選プールのカナダ戦。相手フォワードを圧倒するトリコロールのフォワード陣を従えて、スタンドオフフレデリック・ミシャラクが大暴れ。 浅い位置でボールを受けてはギャップを見つけて自ら何度もゲインラインを突破。手でも足でもファンタジー溢れるパスを連発し、イギリスメディアを中心に「フレンチフレア復活」と色めき立ったが、そんなものが遠い幻だと知っているフレンチサポーターは冷静そのものだった。

 そもそも、フレンチファンに言わせれば「『French Flair』なんて、イギリス人が勝手に生み出した英語表現」。そういえば、最後の正真正銘のフレンチフレア、トマ・カステニェードも、フランス国内よりもイングランドで愛された。

 

 1999年にベルナール・ラポルトが代表監督に就任して以来、マルク・リエヴルモン、フィリップ・サンタンドレと監督は替わってもフランス代表の基盤は常にフランスラグビーの伝統であるスクラムと統制のとれたディフェンス。

  今大会を見ても、今やどのチームとも対等以上に渡り合えるジャパンのスクラムを作り上げたマルク・ダルマゾ、世界トップレベルのスクラムを持つジョージアのフォワードコーチディディエ・ベスは共にフランス人。また、オーストラリアについにスクラムという文化をもたらした元アルゼンチン代表のマリオ・レデスマは選手生活の最後の10年間をフランスで過ごし、その後もスタッド・フランセ、モンペリエでコーチを務めた完全なフレンチタッチ。フランスのスクラム文化は世界を席巻中である。

 国内リーグでも昔は3−6で終わるような試合がフランスの伝統だった。ここ数年、資金力にものを言わせ世界中からトップ選手を集めることに成功したトップ14のトップクラブは、スーパーラグビーにも劣らないアタッキングラグビーを見せているが、選手層の薄い下位クラブは残留のために勝ち点を拾うべく、接点で必至に相手ボールの出だしを遅らせようとする泥んこラグビーを厭わない。元オールブラック、77キャップを持つアリ・ウィリアムズはトゥーロンに来た当初、「フランスが、こんなにラグビーをやらせてくれないところだとは思わなかった」と嘆いたほど。

 

 騙されてはいけない。フレンチフレアなんてものは、たまに現れては消える蜃気楼である。

 

 この4年間、歴代監督の中で最低の勝率を残したフィリップ・サンタンドレ。今大会に入ってからも、4年経ってもゲームプランもスタイルもないと、ファンからも評論家からも叩かれっぱなしのままニュージーランドとの準々決勝へ向かう。

 試合2日前の木曜日には、ニュージーランド戦を前についに選手自らが主導権を握ったとの報道が流れる始末。サンタンドレが選手の自主性に任せたのか、選手側が監督をはじき出したのかは大会が終わってから明らかになるはずだが、選手から「立派な男だが、チームを導く器ではない」との評価を受けた監督の声はすでに届いていない模様。また、アドバイザーとしてチームに帯同、選手選考にまで影響を与えているフランスラグビー界を牛耳る往年の名選手、「ドン」の異名を取るセルジュ・ブランコの存在がチームに悪影響を与えているのは明白だ。

 「最終決戦」を前に3人を入れ替えたフランス代表。これまで冷遇されていたスクラムハーフのモルガン・パラがついに先発復帰したのも、良くも悪くもその強烈なリーダーシップが必要とされているからこそ。また、唯一の飛び道具だったヨアン・ユジェを大会早々に失いオールブラックス相手にはどうしても別の攻撃オプションが欲しいということで、フランスではそのスタイルがソニー・ビルとも比較される秘密兵器のアレクサンドル・デュムランがスターティングラインアップに。アイルランド戦で調子の出なかったバスタロはインパクトプレーヤーとしてベンチに座る。ベルナール・ルルーはタックル、ラックでの激しさとそのワークレートを買われて、ファンにとっても待望の先発出場となるが、今朝フランスのニュース番組で行われたアンケートでは、「ニュージーランド戦での奇跡を信じる」国民は34パーセント。

 

 フランス代表はアウトサイダーのときほど力を発揮するというのは自他ともに認めるところ。4年前は、公式会見で監督が選手を「あのクソガキども」呼ばわり、選手は「ここまで来たら好き勝手やらしてもらうよ」と、チームとしては完全崩壊する中で決勝まで行きホスト国のニュージーランドを追いつめた。1999年ワールドカップでは準決勝で、2007年の準々決勝では明日試合が行われるミレニアムスタジアムで、オールブラックスを破る番狂わせを見せている。

 

 アイルランド戦での無抵抗の不甲斐ない敗戦の6日後に挑む世界最高チームとの一発勝負。「ここで荒ぶれないようなら、別のスポーツをやった方がいい」と言い切ったサンタンドレ。トリコロールの選手達はピッチに蜃気楼を立てるほどの熱い戦いを見せられるか。

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