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6ネイションズ2016−第1節を見ての雑感−

2016/02/12

 新しいチームは簡単には作れないということか。

 新監督を迎えたイングランドとフランス。ワールドカップの惨敗を払拭する新しいプレースタイルが期待されたが、どちらも勝ちを拾ったものの、ファンを納得させるには程遠い内容。
 トゥールーズにトータルラグビーを植え付け欧州ナンバーワンクラブに育て上げたギイ・ノヴェスが就任したフランスは、サンタンドレ時代のフォワードとキックにオフロードは極力禁止という安全と効率のみを重視した銀行仕事のようなラグビーから、「フランスらしい」ラグビーの復活を掲げ、バックスはワールドカップでのニュージーランド戦から先発総入れ替えで挑んだイタリア戦。ボールをワイドに動かそうという意識ははっきり見られ、5ヶ月前のイタリア戦と比べてパスは20、オフロードも5増えた一方で、最長のシークエンスでも1分20秒とアタックが継続せず行き当たりばったり。ディフェンスも連携が甘く穴がでた。50メートルの決勝ペナルティゴールを沈めたプリソンは立派だったが、フランスが勝ったというよりは、イタリアが負けてくれたと言ったほうがいいゲーム。やろうとするラグビーの方向性は見えたが、現状では完全に下書き段階。

 「Ugly win」。イングランドラグビーの改革にやってきたエディー・ジョーンズが最初にもたらしたのは、ランカスター時代に失ったイングランドの代名詞。メンバーはランカスター時代から若干の変化はあったものの延長線上。ランカスターが残っていたとしても呼ばれたであろうメンバーが順当に招集されたと言っていい。プレースタイルも目新しいところはなく、むしろキックは増えた印象で、中身よりもまずは結果をとった。ジョーンズのラグビーを浸透させるには時間と、そして試合後にジョーンズが「足りない」といったフィットネスが必要。
  際どいゲームを汚くものしたイングランドに対して、惜しいゲームをまたも大事なシーンでのミスが響き落としたスコットランド。またか、とスコットランドサポーターはため息をついた。2014年に監督に就任した名将ヴァーン・コッター、実はクレルモンの監督時代はその勝負弱さで有名だった。リーグ2位の予算でトゥールーズに匹敵するメンバーを揃え、トップ14では任期中8シーズン全てでプレーオフに進出するも、優勝したのは一度だけ。初年度から3年続けて決勝で負け続け、4度目でやっとブレニュス盾を手にした。チャンピオンズカップでも2013年に悲願の決勝に進出し下馬評では有利と見られていたが、ジョニー・ウィルキンソン率いるトゥーロンに1点差で逆転負け。クレルモンは、コッター退団直後のシーズンとなった昨シーズンもトップ14と欧州チャンピオンズカップの両方で決勝敗退を喫しており、その勝負弱さは相変わらずで、コッターのせいではなかったのだが(それともコッターの遺産が大きすぎるのか)、ワールドカップのオーストラリア戦、今回のイングランド戦と、スコットランドのあの歯痒い勝てなさぶりを見ていると、なんとなく無駄に穿ってみたくなる。

 面白くないと非難も受けていた、ジェイミー・ロバーツとフォワードを相手にぶつけるのが軸の「ウォーレンボール」と呼ばれるプレースタイルからの進化を目指すウェールズ、以前よりもバックスの手を通してボールがワイドに動くようになったものの、トライをとる形がまだ作れない。おまけに相変わらずのスロースターターぶりを発揮し、前半20分までは地力で劣ると見られたアイルランドに押されっぱなし。結局振り切ることができなかった。膝の怪我でワールドカップを棒に振ったCTBジョナサン・デイヴィスが復帰し、ロバーツとの黄金コンビが復活。ロバーツは21タックル、攻撃でも起点となり、全盛期の頃の動きが戻ってきた(ケンブリッジでの学生生活がいい息抜きになったか?)。
 お見事だったのはシュミットとブリュネル。

 ワールドカップでは見せ場なく敗れ去り(あのフランスに勝ったところで喜べない)、オコンネルは代表引退、セクストンは頭に爆弾を抱え、おまけに主力に怪我人多数。欧州チャンピオンズカップではアイルランド勢は予選で全滅。コナートが辛うじてチャレンジカップのベスト8進出と、下り坂に見えるシャムロックにもかかわらず、ホームダブリンのサポーターの前では無様な試合は見せられないという気迫の込もった、アイルランドらしいチームが一つになった試合で、ウェールズ相手にドローを引き寄せた。シュミットという監督は、手元にある駒の能力を、相手チームに合わせてチームとして常に最大限に発揮させるということに関しては天才である。

 どちらかというと、守備の穴が生んだ打ち合いの感が強かったが、それでもイタリアが見せてくれたのは戦前の予想をはるかに超えたものだった。ワールドカップではいいとこなし。6ネイションズ後のブリュネルの任期満了での退任も決まっており、初キャップのメンバーも含めた若い布陣で、ただ経験を積ませるだけのゲームになるかと思ったら、怖いものなしの若手がのびのびプレー。パリセがあそこでプリソンに沈められたペナルティを献上しなければ、それとも最後にドロップチャレンジしなければと、たられば言いたくなるほど惜しいゲームだった。元々、ペルピニャン監督時には魅力的なラグビーでトップ14優勝、欧州チャレンジカップも2度制すなど、戦術家として名高いブリュネルが撒いた種が遅まきながらやっと芽を出したが、どうしてこれがいつもできないのか。ブリュネル曰く、「だって、ラテンだから」。次期監督はアイルランド人でイングランドクラブで長く監督を務めたコナー・オシェア。少しは安定性が注入されるか。

 ワールドカップ直後で選手は疲弊、新チーム、次期ワールドカップまでは3年半と、いろいろと本気にならなくてもいい要素が並んでいるように見えるが、2019年ワールドカップの組み分け抽選は今年の12月。「死の組」を避ける可能性を上げるためにはワールドランキングで少なくとも8位以内に入っておく必要があり、実は一つも落としていい試合はない。3年半後を目指しつつ目の前の結果も欲しい、そんなさじ加減の今年の6ネイションズである。

 

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