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6ネイションズ2016 第3節、雑感

2016/03/06

 アダムとイヴに、ダビデとゴリアテ。
 これが日本なら昔話か有名な戦国武将の例が挙がるのかもしれないが、ここはヨーロッパ。
 「セクストンが悪いディフェンダーだとは言わないが…アイルランドの何人かは狙いにいくよ。なんでわざわざディフェンスのいい選手に向かっていく必要がある?私たちは勝ちたいんだ。ラグビーのゲームを勝つには相手の弱点を突くことさ。それがアンフェアだというのは馬鹿げている。アダムとイヴの時代から行われてきたことだ。アイルランドがヘンショーをジョージ・フォードにぶつけてこないとでも思っているのか?いい加減にしてくれよ」

 第2節後にアングロサクソン系のメディアが体調面で不安のあるセクストンを徹底的に狙ったフランスのゲームプランを非難していたが、アイルランド戦を前にしたエディー・ジョーンズはそう言ってこれを一笑。「セクストンの両親は心配だろうね」とまで言い放ち、かなり挑発的な言葉を並べた。

 「ダビデはゴリアテに対して何の問題もなかった」とこれまた故事を引用したのは、イングランドディフェンスコーチポール・ガスタード。体格に勝るアイルランドセンター陣を抑えられるか注目されたジョージ・フォードへの信頼を示し、チームとして守ることの重要性を強調。 試合も結局大事なところでイングランドのディフェンスが凌ぎ切ったのが大きかった。
 アイルランドの戦いぶりは立派だったが、完全な力負けだろう。確かに、ここで取れていればアイルランドに流れが行ったかもという場面が何度かあったが、新監督を迎え改革途上のイングランドに真正面から押し返された。ラックでの速いクリアな球出しがアイルランドの特徴とはいえ、密集にかける人数を減らして新たなオフェンスシステムを構築しない限り手詰まりなのはワールドカップのアルゼンチン戦ですでにわかったはずだが、怪我人続出、オコンネルの引退でチーム自体も過渡期の現状では難しい。シュミットも認めているように、芽が出始めている若手がテストマッチレベルに対応できるようになるまで時間が必要だろう。
 それにしても、ここ2シーズンのマディガンのプレーを鑑みて、いくら3連覇がかかっていたとはいえ開幕前から苦戦は目に見えていたはずの今大会、ここまで無理してセクストンを使う必要があったのか。

 逆にイングランドはタレントが余っている。負傷者と代表候補止まりのメンバーを含めれば、代表チームが二つ作れる層の厚さ。新体制になってから時間も少なく未だ土台を作っている段階なのは見え見えだが、ここまで底力だけで3連勝。勝つためのラグビーで、必要なキックの使用は若干増えたが、アタック時のフォワードの集散と密集での球出しのテンポははっきりアップ。それでも、ジョーンズのシステムがフィットし始めるのは早くて夏の遠征からのはずで現在は試運転の段階。ジャパンをあそこまで変えた手腕と持ち駒の豊富さを見ていると、イングランドがどこまで変身するのかワクワクしてしまう。

 

 「この勝利が自信になる」とコッターが言ったように、スコットランドにとってはまずは2年越しの大会9連敗を止めたことが何より。これで2年連続のウッデンスプーンの危機も回避。チームを完全に作り上げる時間がなかったワールドカップでは相手チームを細部まで徹底分析した上でのカウンタープレーも目立ったが、今大会は勝てなくてもいい意味で自分たちのラグビーに集中。コッターも再度腰を据えてチーム作りをしている中での1勝ということで、「イタリア相手」とはいえいい弾みになるはず。次戦の相手フランスには2006年のシックスネイションズ以来10年間勝ちがないらしいが、負け癖が出なければ優位。

 現在負傷中のハーフペニーにマイク・ブラウンもいるが、2017年のライオンズのニュージーランド遠征ではやっぱりスチュアート・ホッグのフルバックが見たい。

 

 今大会限りでの退任が決まっているジャック・ブリュネルはローマでの最後の試合を勝利で飾れず。大会直前には、4年間の任期の最後の最後になってベテランと若手の混じった楽しみなチームが出てきたとのコメントを残していたが、もともとブリュネルがペルビニャンでブレニュスを獲得したときにやっていたラグビーはこんな思い切りのいいラグビーだった。完全に停滞状態のイタリアラグビー界のあおりを食ってほとんど何もできなかった名将の4年間が静かに終わっていくのを見るのは、少し寂しい。

 

 一部では内容の乏しさが叫ばれたウェールズ−フランス戦を見ながら思ったのは、技術は磨くことができてもスタイルは変わらないということ。代表で定位置を獲得する以前から、オスプレイズでは味方のラインを前に出す攻撃的なプレーが持ち味だったビガーだが、荒さも目立ち2年前の今頃はまだプリーストランドからウェールズの10番を完全に奪えずにいた。それが、今や技術と判断力も身につけこのゲームでは効果的なキックも随所に見せ、次期ライオンズ10番候補の実力を十分に発揮。ウォーレンボールの限界を自ら見たガトランドが、もっとリスクを背負った攻撃的なラグビーにモデルチェンジを図っているのを見れば、この先安定感が売りのプリーストランドが再び一番手として起用されることはまずない。後半途中から投入され、何度も得意のラインブレイクを見せたフランスのトランデュックも含めて、プレースタイルの意義を再認識させられた。


 フランスは相変わらずアタックに関してはほとんど何もない状態。試合後、フォワードコーチのブリュは状況判断の精度を上げることが必要と口にしたが、ノヴェスのラグビーがチーム全体に浸透するまでにはまだまだ時間がかかりそう。鳴り物入りで15人制代表に呼ばれイタリア戦では散々話題になったヴァカタワも、ウェールズ相手にはほとんど何もさせてもらえなかった。それでも、今のところフランス国内では「ムッシュー・ノヴェス」を叩く声は当然聞こえてこない。

 

 アイルランド戦前の会見を受けて、もともと際どい発言も厭わないエディー・ジョーンズを、とうとうモウリーニョと比較するイングランドメディアも現れる始末。アイルランド戦後には「もし私が何も言わなければつまらない会見だったというくせに、もし私が何か言えばデマ扱いだ」と言って、自らウェールズ戦まではメディアに対して「自主規制」を敷くことを宣言。ランカスター時代は、よくガトランドがメディアを介して場外戦を仕掛けていたが、おそらく今年のシックスネイションズの勝者を決めることになる天王山を前に、今の所は静かな戦いが進行中である。

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