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6ネイションズ2016 第4節、雑感

2016/03/17

 アビバの芝にくっきりと陽が差していた。
 数年前からダブリンで暮らしているモーリシャス人の両親を持つ南仏生まれ南仏育ちの友人も帰郷した折に嘆いていたが、「晴れるのは良くて週に一度か二度。それも雲間から太陽が顔を出せばもうけもの。快晴なんてありえないし、しかもそれが運良く週末にあたるなんて殆ど奇跡」というダブリンの天気は有名。

 ダブリンの空に近づく春を感じさせる太陽。これだけで、シックスネイションズの週末のラグビーファンをウキウキさせるには十分だ。

 

 イタリアが最後にダブリンで勝ったのは1997年。アビバスタジアム誕生の遥か前、まだランズダウンロードと呼ばれていた頃。30代後半以降のラグビーファンには未だにしっくり響くファイブネイションズの時代で、イタリアはまだ加入できずにいた。

 7分までに、取らなければいけないトライを取れず、取られてはいけないトライを献上したのがすべて。新しいメンバーを多く試している今のチームではあそこから盛り返すのは難しい。チームとしての形は見えず、途中からは殆ど借りてきた猫状態。10月のワールドカップ時のアイルランド戦は9−16の敗戦だったことを考えると差は開く一方にも見えるが、今大会のイタリアはこの先を見越して国内クラブチーム所属の若手を中心に起用、経験を積ませているところ。思い切ったプレーも随所に見られ、未だ公式発表が出ない次期監督次第では、ここ数年停滞気味だったアズーリがやっと動き出すかもしれない気配もある。

 一方で、ワールドカップでも結果を出したジョージアが、シックスネイションズの2部にあたるネイションズカップのディビジョン1で、2012年以来負けなしという圧倒的な強さで2011年から昨年まで5連覇中。6ネイションズの最下位チームとの入れ替え戦実施の声も年々高まってきており、イタリアにとっては尻に火がついている。

 見た目も話しぶりも知性溢れる監督に象徴されるように、アイルランドの選手たち一人一人がラグビーをよく勉強し、理解し、チームとしても個人としても正しくプレーできるのはわかったが、どうしてもイタリア相手だったからという印象が拭えない。接点で圧倒的優位に立ってラックから人数をかけずに速いボール出しができる時はこういうラグビーができるというのはわかっている。ワールドカップのフランス戦もそうだった。ただ、それができないときには手詰まりになってしまうのがワールドカップのアルゼンチン戦、そして今大会ではっきりしたはず。シュミットが目指すところが2019年のワールドカップ優勝なら、モデルチェンジは必須だろう。

 

 自国開催のワールドカップでの予選プール敗退という悲劇の原因となったトゥイッケナムでのウェールズ戦の敗戦からほぼ6ヶ月。もしこのペースで成長を続ければ、選手層の厚さも考慮して3年半後のワールドカップの圧倒的一番人気はイングランドかもと思わせる変身ぶり。「(ウェールズ戦の勝利に)本当に満足しているとは言えない。私が満足するのはイングランドが世界一のチームになったときだ。そのためにここに来たんだ」というジョーンズの言葉も現実味がある。

 昨シーズンのサラセンズでのプレーを見ていれば、イトジェのパフォーマンスに驚くことはない。それよりも、ランカスター時代よりも自由を与えられたことでアタックの才能を遺憾なく発揮できるようになったビリー・ヴニポラや、愚行の数々でランカスターから干されたハートリー、ワールドカップ時にはジョーンズ自ら批判したロブショーら中堅どころに再度息吹を与えたところにジャパンに革命をもたらした名将の手腕が見える。
 ハートリーのキャプテンマークに、ケア、マヌ・ツイランギの代表復帰と、パフォーマンス以外の理由でランカスターに呼ばれていなかった選手を再招集。個人的には、醜聞まみれでファンが離れていった以前のようなローズに戻らないか若干気がかり。この試合でも、お騒がせ男マーラーがウェールズPRサムソン・リーを「Gypsy boy」と挑発。なんとか出場停止は免れたが、 ランカスター時代よりも箍が緩んでいるのは確か。

 勝てば官軍というのは嫌い。ワクワクさせるラグビーを見せてくれるなら、応援したくなるようなチームでいてほしい。そうじゃないとジレンマに苦しむのはこっちだから。

 

 ウェールズメディアでは、「前半はガトランド就任以来最低のゲーム」。代表選手として戦う準備ができていないままグラウンドに出たと、試合後珍しく選手に辛辣な言葉を浴びせたガトランド。最後の20分の盛り返しに見るものはあったが騙されてはいけない。プレーの質を見れば、差は明らか。スクラムハーフのシェイプ一つにしても、常に次のプレーを意識し「どうして」やるのか意識できているイングランドのそれと違い、ウェールズのそれは行き当たりばったりのただの繋ぎの感が否めない。フォワードがボールを受けるときの深さもスピードも雲泥の差。ウォーレンボールと揶揄された単調なラグビーからの脱却を図っている最中だが、選手層でも劣るウェールズ、このままだとイングランドとの差はますます広がることになる。

 負傷前まではヨーロッパナンバーワンと評価を受けていたハーフペニーの不在をフルバックに感じることはないが、カスバートの14番にそのしわ寄せが。ハーフペニーがいれば、現在その穴を埋めているリアム・ウィリアムスが14番に入り、やっと代表でもフィットし始めたノースと強力なバックスリーを形成できる(昨季のリアム・ウィリアムスは負傷前までシーズンを通してスカーレッツでフルバックとして出色のパフォーマンス。ハーフペニーの代わりにフルバックに推す声も多かった)。ワールドカップの南アフリカ戦でも戦犯に挙げられたカスバート、わずかなディフェンスミスが命取りとなるテストマッチではやはり心もとない。

 

 ワールドカップのオーストラリア−スコットランド戦以来のヨーロッパ見参となったジュベールさんは、簡単じゃないゲームをうまく吹いたと思う。

 

 自らの勝利で忌み嫌うイングランドの大会優勝が決まるという皮肉な結果にも、今度ばかりはスコットランドファンも大喜び。10年ぶりの対フランス戦勝利に、2013年以来のシックスネイションズでの2連勝。77分、自陣インゴールまで5メートルのところでフランスのラインアウトモールを止めた時のレイドローのガッツポーズが、どれだけ選手が勝ちたがっていたのかをよく表していた。

 負傷退場のラッセルの穴を見事に埋めたホーン。グラスゴーではスタンドオフでプレーすることは殆どないものの、クラブで好調なパフォーマンスを続けるユーティリティーバックを呼んだコッターの手腕が光った。

 6カ国の中では、コッターとジョーンズのやろうとしているラグビーが一番近い。

 

 勝てば最終節でパリにイングランドを迎えての優勝決定戦のチャンスがあったフランスだが、マレーフィールドで敢え無く返り討ちに。

 ついにトリコロールの10番に再び袖を通したフランソワ・トランデュックは、ラックでのボールの出が遅く思ったようなプレーができなかった。それでも、もともとプレースキックに難のあるトランデュックにわざわざキッカーを任せたことでも、この4年間サンタンドレのコーチングスタッフから冷遇され続け、一部のサポーターからはブルーのジャージを着ているときは実力発揮できないとの烙印を押された29歳にかけるノヴェスの期待の大きさがわかった。

 フランス伝統のスクラムは、ディキンソン、フォード、ネルのスコットランド第1列の前に完封され、54分には6点差の状況でゴール真正面のペナルティをコーチ陣の指示を無視してタッチ、結局無得点に終わるなど判断ミスも多かった。ここまでポジティブな論調だったフランスメディアも、翌日にはあっさり手のひらを返して辛口な批判を展開。元代表監督、現在トゥーロンでヘッドコーチを務めるベルナール・ラポルトは「フランスラグビー史上最悪のチーム」とこき下ろす始末。

 そんなフランスにもかかわらず、試合の序盤は、こんなに活気のあるラグビーをやるフランスを見るのは何年ぶりかと嬉しくなったのは僕だけか。一時代前のフランス代表に魅せられたファンとしては、無責任と言われても、勝たなくてもいいから今や死語となったシャンパンラグビーが見たい。サンタンドレ時代の4年間、勝とうが負けようがフランスサポーターが夢を見ることは叶わなかった。フレンチフレアの復活はまだ遠い。それでも、いつまで続くかわからないが、ノヴェスとは今のところまだ夢が見られそうだ。
 

 イングランドの優勝、イタリアの最下位が決定し、フランス国内では若干消化試合の感もある最終節かと思ったら大違い。「こんなひどいラグビーをやっておきながら、最後の最後でイングランドのグランドスラムを阻止したら、それこそ最高」と、犬猿の仲のライバルのお祭りを台無しにすべくフランスサポーターはやる気満々。ああ、やっぱりクランチだ。

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