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トゥーロン、コーチ陣一新か?

2016/07/12

 シーズンオフだというのにトゥーロンが騒がしい。

 

 新シーズンに向けたキャンプインを2週間後に控えた昨日、今季から正式にヘッドコーチとして指揮をとることになっているディエゴ・ドミンゲスとフォワードコーチのジャック・デルマスがクラブを離れることになると、ミディ・オランピックとレキップがそろって報道した。

 

 ミディ・オランピックが、ドミンゲスが会長ブジェラルのやり方に愛想をつかして辞任を申し出たと書く一方で、レキップによればブジェラルがドミンゲスを解雇したとのことだが、どちらにしてもその発端はブジェラルが独断でマルク・ダルマゾをフォワードコーチとして迎えたことにある。

 すでにトゥーロンとの仮契約を済ませていたダルマゾ、先週トゥーロンを訪れ今季からのフォワードコーチ就任にサイン。あとはクラブの公式発表を待つばかりとなっている。

 

 これと並行してブジェラルは、トップ14決勝後半の試合を決めたスクラムの場面で、スパイクを脱いでしまっていたプロップチラチャバを再投入できずにマイボールスクラムを失ったことをコーチングミスとして、あと1年契約が残っていた現フォワードコーチのデルマスを解雇。2005年、2006年にはビアリッツのフォワードコーチとしてトップ14連覇を果たしたデルマス、昨季までヘッドコーチを務めたベルナール・ラポルトとは旧知の仲ということもあり2013年からフォワードコーチを務めてきたが、ブジェラルとの関係は冷え切ったもので、もともと幾度となく解雇が噂されてきた。

 

 ところが、これに黙っていなかったのがドミンゲス。フランスラグビー協会会長戦の準備で不在となることが多かったラポルトの事情と、ラポルトからドミンゲスへのスムーズな禅譲を望むクラブの思惑もあり、すでに昨季途中からヘッドコーチ補佐としてチームに帯同してきたスタッド・フランセで4度ブレニュスを手にしたアルゼンチン出身の元イタリア代表スタンドオフは、バックスコーチスティーブ・ミーハン、フォワードコーチデルマスという現行のコーチングスタッフで新シーズンを迎えることを望み、ブジェラルの説得にもかかわらず、「それが条件なら俺は出ていく」とダルマゾのフォワードコーチ就任を断固拒否。満を持して今季からチームの指揮をとるはずだったブジェラル自ら呼び寄せた新監督を、マイヨールのスタンドに見る可能性はほとんどなくなった。

 

 当然のように、同時に次期ヘッドコーチの名前が浮上。ブジェラルはまずダルマゾにヘッドコーチ就任を持ちかけるも、まだヘッドコーチのポストは早すぎると断わられ、現在名前が挙がっているのは前イングランド代表監督スチュアート・ランカスターと元ニュージーランド監督グラハム・ヘンリー。ランカスターとは木曜日にも会談を持つ模様と伝えられているが、元フランス代表スクラムハーフファビアン・ガルティエの名前も。もともとダルマゾのトゥーロン加入はガルティエのヘッドコーチ就任が条件だったが、ガルティエは昨季途中に解雇されたモンペリエと未納の違約金をめぐって現在も法廷闘争中で、12月に判決が出るまでは他チームと契約を結ぶことが不可能となっている。そこでガルティエと契約が可能になる来年1月まで臨時コーチを立て、ガルティエが自由になり次第、ブジェラルが始めらから望んでいたガルティエ−ダルマゾの体制を敷くという策である。

 

 ランカスター就任の場合には、腹心のバックスコーチを連れてくるということで現バックスコーチのミーハンも解雇が濃厚。現状では、新シーズンのコーチングスタッフで確実なのは、現在世界でもベスト5に入るディフェンスの専門家、ウェールズ代表のディフェンスコーチショーン・エドワーズのみという異常事態に陥っている。

 

 そんな中、数日前から珍しくメディアに口を閉ざしてきたブジェラルだが、今朝のヴァンサン・クレールの入団発表の場で、「ここ数日メディアで書かれていることはすべて否定する」とやっと口を開いた。「ドミンゲスとデルマスの退団の公式発表はしていないし、ダルマゾの加入も発表していない」と言い、「書かれていることはすべて間違っている」と完全否定。ただ、文章のそこかしこに「今日の時点では」「今のところ」という語尾が付いており、会長の話術を熟知しているメディア、サポーターの間ではその言葉に懐疑的な見方が圧倒的である。

 

 裕福とは言えないアルジェリア移民の家に生まれ、ゼロからフランス3番目となるBD(漫画、コミック)出版社を作り上げたブジェラルは、完全に財政破綻状態にあったトゥーロンを買い取り、ポケットマネーで負債を返済。他クラブからは過剰とも見られる企業経営の論理を持ち込み、2部にいたクラブをたった7年でヨーロッパチャンピオンに導いたが、一番の功績は何と言ってもジョニー・ウィルキンソンを呼び寄せたこと。当時大きな怪我が重なり終わった選手とみられていたウィルキンソンを、周囲の反対を押し切り獲得。気候の良い南仏の港町で見事に復活したウィルキンソンのプロフェッショナリズムと人徳がチームの意識を変え、多くのトッププレーヤーがウィルキンソンとのプレーを望んでトゥーロンに加入し、欧州チャンピオンズカップ3連覇という偉業を達成する真のプロ集団を作り上げることになった。それが、ブジェラル自ら『キング』と称したウィルキンソンが引退し、4季半の任期で決勝進出8回、4つのタイトル獲得という成績を残したラポルトも任期満了で昨季限りで退団したことで、ブジェラル以上の発言力を持つ者は誰もいなくなり、前人未到の欧州3連覇という結果も受けて、ここ1、2年、そのワンマンぶりに拍車がかかっている感がある。以前、チームの意向を無視してでも自分の好きな選手を毎年一人連れてくる権利をブジェラルは自らに与えていたが、ここ数年の補強を見ていると、ラグビーに直に触れることなく育った会長のチーム編成への影響力がますます強まっているように見える。

 

 昨シーズンは3季ぶりに無冠に終わり、ここ数年の黄金期を支えてきた何人かの中核選手も他クラブに移籍し、監督も交代。会長自ら新時代のスタートと位置づけていた2016−2017シーズンだが、その剛腕ぶりが仇となって嵐の船出となりそうな新生トゥーロン。船長なくして船は出ない。ブジェラルの剛腕が今度はどんな舵取りを見せるのか。

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